Wizardry#1(SFC)
プレイ記録06 奈落


「はッ!―」
ブノムの放つ高速の多段斬りを受け、目の前のサムライが鮮血を噴きながら倒れる。このショートソード、通称『最強の短剣』は、以前に使っていた『良い短剣』より、更に軽く鋭い刃を持ち、ブノムの技と速さをより一層に引き出していた。
「リンパリス、もう危険だ!下がれ!」
ラコルフェがもう1人のサムライと激しく打ち合いながら叫んだ。身に付けた白銀の鎧は所々が歪んでひび割れており、返り血で赤黒く染まっている。返り血だけでなく、自身から流れ出た血もあるだろうか。
「もうディオスを使う魔力も残っていない。安全な場所に身を隠すんだ」 ラコルフェは、すぐそばで息を荒げているリンパリスに再度促した。リンパリスは全身に切傷や打撲などがおびただしく刻まれ、立っているのがやっとの状態であった。
「…す、すまねえな…。俺が爆弾の解除をしくじっちまったばっかりに…」
リンパリスの後ろには、動かなくなったサーマイン、オータブ、ロミニが血の染みた袋に入れられて横たわっている。
サムライを斬り伏せたブノムが、リンパリスの前まで戻って呼吸を整える。
「たとえ解除に成功していても、結局はこうなっていただろう。お前だけが気に病む必要は無い」 そう言って、ラコルフェと戦うもう1人のサムライに向かっていった。
どうしてこうなってしまったのか…―


その数刻前、パーティーは迷宮の地下7階を探索していた。
「モンスターもほとんど出てこないし、マップも単純な構造のようだ。ここから先も、そんなに問題は無さそうだな」
ロミニが何も書かれていない紙を広げて手をかざすと、黒い焦げ跡が走り、これまでに通った道筋となって現れた。紙の中には大きな正方形の通路が描かれ、その内側には幾つかの小部屋が記されている。



「おそらく、この先も同じような構造だろう。まだ魔力にも余裕はあるし、出てくるモンスターも大したことないから、このまま一気に探索を進めてしまおう」
ロミニが手を離すと、地図が描かれた紙はそのまま燃え尽きて灰となった。
「分かった。扉を見落とすといけないから、ロミルワを使おう」 ラコルフェは短く印を切って詠唱し、手を上にかざした。すると、眩い光を放つ球体が現れて パーティーの頭上に浮かび上がり、周囲の石壁を照らす。訓練場でロードとしての修行を終えたラコルフェは、もう初等の僧侶呪文を使用できるようになってい た。
ここ最近の探索は順調で、リンパリスとオータブも宝箱の罠開錠を失敗することなく、次々と新しい宝物を発見している。
「この甲冑…前に見つけた物と同じ材質ですね。店で売っている鎧より、遥かに頑丈な鋼鉄ですよ」 オータブが宝箱に入っていた鎧と、ラコルフェの着ている白銀の鎧とを指差す。


この『極上の鎧』という愛称で呼ばれる鎧は、ラコルフェがロードとなってからすぐに見つかった物で、洋白色のカラーと銀細工の装飾が騎士のイメージにピッタリだったため、転職祝いということでラコルフェが受け取った物であった。
「この宝箱に入っていた物は装飾も無くて地味な色ですけど、ラコルフェさんの着ている物と性能は変わらないと思いますよ。サイズもちょっと大きいから、サーマインさんに似合うかも…どうですか…?」
「地味で悪かったな。だけど、こういう無骨なデザインは嫌いじゃないぜ」
オータブが鑑定を終えた鎧を差し出し、サーマインが受け取る。確かに、店で売っている安物と大差ないような地味な外見である。
「じゃあ、サーマインが着替え終わったら探索を再開しようか。それまでは休憩だな」 リンパリスが石床の上にドカッと腰を下ろすと、他のメンバーもそれに習って一時休憩となった。

その後、いくつかの部屋を通過するも、相変わらず同じような構造の部屋が延々と続くばかりであった。たまに部屋の中に棲息している盗賊やモンスター達も、戦士達の相手になる者ではなかった。
「もう結構歩いたよな。そろそろ引き上げにしないか?」 サーマインが剣を鞘に収めてロミニの方を向いた。ロミニはやや深刻な表情をしている。
「おかしい…座標が合わない…」 ロミニがそう言って再び白紙に手をかざした。
「これは…もしや、転送床が仕掛けられていたか?」 ラコルフェもロミニの描いた地図を覗き見る。
パーティーが探索していたのは北側のエリアであったが、描かれた地図の現在地座標では南側のエリアが示されている。
「この地図が確かなら、ここから引き返してもエレベーターの部屋には戻れないな」
この南側のエリアに行くための通路や部屋は通っておらず、また、外側からも入れないような構造になっているため、どこかでワープしたとしか考えられなかった。
一行が不穏な空気を感じ始めた時、突如リンパリスが大声で叫んだ。「しくじった!伏せろ!」
何事かとリンパリスの方を向く間もなく、部屋の中に轟音が響き、その直後に起こった爆風が全員を吹き飛ばした。
何度かこれに似たような事を経験したことがある。おそらく、リンパリスが宝箱に仕掛けられた爆弾の罠の解除に失敗したのだろう。だが、今回は爆発の規模がかなり大きい。
黒い煤煙とパラパラと落ちてくる石壁の破片の中、ラコルフェが一番に立ち上がり、全員の安否を確認した。「みんな、無事か…?」
ブノム、サーマインが続いて起き上がり返事をする。リンパリスも面目無さそうに座っている。オータブは石壁に叩き付けられたのか、まだ全身が動かないようだが、弱々しく返事をした。だが、ロミニの声が聞こえない。
ラコルフェは、すぐさま倒れて動かなくなっているロミニの元に駆け付けた。
「くそっ…ダメか…」 すぐにディオスをかけようとしたが、ロミニは爆風で吹き飛んだ石片が運悪く頭に直撃して即死していた。



ロミニはローブしか身に付けていない魔術師のため非常に脆く、これまでにも戦士達の護衛の及ばないような罠の前では、しばしば命を落としていた。
パーティーの攻撃の核となっている魔術師ロミニが戦闘不能となった場合、すぐに町に戻ってカント寺院の世話になるのであるが、今回はそうもいかない。先ほど地図を確認したとおり、地上に昇るエレベーターのある部屋まで戻れなくなっているからだ。
「まずいな…オータブ、デュマピックはあと何回使える?」
「は…はい、あと5回くらいは…」 ディオスで自身の傷を癒して起き上がったオータブが答える。
「戻れない以上、先に進んで道を探すしかない。全員の体力と魔力が尽きる前に、エレベーターを探さなくては…」
「す、すまねぇ、最近調子がよかったものだから、油断してたぜ…」
リンパリスは、せめてもの償いとでも言うかのように、ロミニの死体を担いだ。
「気にするな、油断していたのは皆同じだ。とにかく、ここから先は戦いはなるべく避けて、生き残ることだけを考えて進もう」
ラコルフェが傷ついた者にディオスをかけながら言った。


「ダメだ、こっちも行き止まりだ」
キャンプで小休止する皆の前にブノムが戻ってきて首を振った。オータブが紙を広げて手をかざし、デュマピックの地図を描く。 「エレベーターの部屋に行く道は完全に塞がれています…」



「代わりに下に降りる階段は見つかったが…どんどん地上からは遠ざかるな」
ロミルワの明かりで照らしながら調べても、壁に扉は見つからなかったため、この地図の通り、完全に閉じ込められてしまったということであった。
サーマインが地図を見て考え込む。そして、中央より少し南の大きな部屋の中がポッカリと空白になっているのに気付く。
「これは、あの妙な模様の部屋か…。みんな、一度戻ってみないか?」
その部屋とは、簡素な装飾の柱が数本建っている以外には何も無いガランとした大きなホールであった。しか し、奇妙なことに床一面に魔法陣のような模様が書き込まれていたのだ。これまでの経験上、ああいったものは罠であることが多いため、模様を踏まないよ うに避けて歩いてきたが、他に手掛かりがあるとしたら、地下8階に降りる階段と、その妙な模様の部屋だけであった。皆サーマインの提案に従って、その部屋を目指して歩く。

扉を開けて中に入ると、先ほど来た時と同じく、怪しげな模様が床一面にビッシリと刻まれている。
「いずれにせよ賭けだな。もう回復呪文も使えないし、デュマピックも残り2回だ。仮に地下8階に降りたところで、ロミニのいない状況では、ここよりも強力 なモンスターにやられてしまう可能性が高い…」 サーマインの意見に、誰も賛成も反対もせず沈黙が続く。「かといって、この模様も罠かもしれない…」
皆どちらが助かる確率が高いかを考えているが、あまりにも不確定な要素が多すぎて判断が付かないでいる。
「危険なのは、どちらに進んでも同じだろう。万が一ということもある」 ブノムがそう言いながら歩を進めて床の上に踏み出した。
「お…おい!」 皆の決心が固まらないうちに、単身で模様の床の上に立ったブノムを、サーマインが呼び止める。しかし、ブノムは平然としており、何かが起こった様子はない。「…大丈夫のようだ」
ブノムの様子を見た4人は、恐る恐る後に続く。
「部屋の奥に何かあるのかもしれない。このまま―」 ブノムがそう呟き、さらに進もうとした時、床の模様が鈍く光を発した。それに気付く間もなく足元が揺れ、模様と共に床が消えていく。
「くっ…!やはり罠か!」 いち早く気付いたブノムは、瞬時に後方に跳び上がった。しかし、残りの4人は反応しきれず、消えた床の跡にポッカリと空いた穴 に、重力にまかせて落ちていった。ブノムが穴の淵ギリギリの床に着地した直後、穴の中からは鈍い衝撃音と複数の悲鳴が響く。
「おい、大丈夫か!」
ブノムが手を穴の淵に付き、下を覗き見て叫ぶ。暗くてよく見えないが、2メートルほど下の壁面から僅かに飛び出した岩の出っ張りに、ラコルフェが辛うじてしがみついている。落下先に運良く突起があったようだ。
「私は大丈夫だ。だが…」 ラコルフェがしがみつきながら下を見ると、穴の底からは鍾乳石のつららが槍のように突き出ており、そのうちの一本に腹部を貫かれてオータブが死んでいた。少し離れた所で は、サーマインも同様につららの上に横たわり、頭からおびただしい血を流して動かなくなっている。目を覆いたくなる光景であった。穴の底からかすかに聞こ えてくる呻き声はリンパリスであろうか。
ブノムは手持ちの道具袋からロープを取り出し、部屋の中の柱に縛りつけた。そして、しっかりと固定した後に反対側を穴の下に垂らし、それを軽快に伝って穴の下まで降りて行く。
ラ コルフェは自力で壁面を登り、何とか床の上まで這い上がった後、力なくうな垂れた。「何ということだ…」 もしかしたら地上に転送されるような仕掛けられ ているかもしれない、そんな一縷の望みは無常にも断たれた。やはり、皆にどこか慢心して油断していた所があったのだろうか。穴の底から、かつての冒険者 だったと思われる骸骨がラコルフェを見つめる。









ということで、地下7階のピットによりパーティーは壊滅状態となってしまった。
しかも、エレベーターにも昇り階段にも戻れない一方通行のエリアのため、あとは地下8階に降りてそのフロアのエレベーターを探す他に無いような状況である。
FC版の地下7階以降がこんなに難しくなっていたとは思いもよらなかった…。

ともあれ、残ったパーティーでは座標確認もできず攻撃呪文も回復呪文も無いため、マップも知らない地下8階の探索なぞ95%以上無理だろう。
死力を尽くして動き回ればエレベーターは見つかるかもしれないが、余計に面倒な場所で全滅する可能性もあるので、ここは大人しく階段の傍で待機して救援を待つことにする。







救援のための第2パーティーを編成する。
メンバーは、最初の頃にブノムが死んだ時に既に3人登録しているので、ダイスを振って残り3人を作成する。
それぞれ種族、性格・職業、ボーナスは以下のような編成となった。

(2,3,2)(エルフ、中立、魔術師)ボーナス8
(6,2,3)(人間、善、僧侶)ボーナス9
(4,2,4,2)(ノーム、善、ロード(不可)→魔術師)ボーナス8
(6,3,6,2)(人間、中立、侍(不可)→魔術師)ボーナス15
(3,5,3)(ドワーフ、悪、僧侶)ボーナス9
(4,5,4)(ノーム、悪、盗賊)ボーナス6

名前もここで全員付けた。

今度は戦士が1人もおらず、代わりに僧侶2人、魔術師3人、盗賊という、また偏ったパーティーである。
このうち、エルフ魔術師のユーレントは、第1パーティーで序盤にブノムが死んだ時にサポートとして加えていたため、レベル4となっている。
性格は善悪混合されている状態であるが、第1が善パーティーだったから、こちらは悪パーティーを目指してみようか。


さっそく、ボルタック商店で装備を整えて迷宮に出発する。
戦士不在ということで前衛の打撃力と耐久力に不安があったが、ハリト×3、バディオス×2の攻撃は100%命中するため、1グループしか出てこない地下1階の雑魚敵は全く問題にならず、さっさと5~6勝して簡単にレベル2にアップできた。



後を追ってすぐに魔術師ユーレントもレベル5に上がり、マハリトを習得。
もうこれで楽勝モードとなったので、さっさと青銅の鍵、銀の鍵を回収して地下2階へ赴く。



戦っているうちに、他のメンバーもすぐにレベル5まで上がる。
後列からのマハリト連発に耐えられる敵もいないし、僧侶2人によってダメージや麻痺もすぐに治療できるから、攻守共に抜群の安定感である。
もうマップを埋める必要もないため、あっと言う間にクマとカエルの置物ならびに金の鍵を入手した。



これでエレベーターが使用できるようになったので、地下3、4階で手っ取り早く経験値とゴールドを稼ぐことにした。



ちょっと危険はあるが、ここで出てくる敵もマハリトを重ねがけすれば十分に倒せる範囲である。
このゲーム、とにかく先手必勝だから魔術師が2人以上になると段違いに楽になるな。



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