Wizardry#1(SFC)
プレイ記録04 試練
狂王の試練場地下4階、ここが生死の分かれ道だ− と、ギルガメッ
シュの酒場でたむろするベテランの冒険者達は皆そう言う。しかし、そこに何が待ち構えているのかが知りたいのだが、彼らは肝心なことについては
話してくれない。加えて、この地下4階の先に行った者の数はかなり少なくなるため、大げさに誇張した話や、全くの与太話などが入り乱れ、新米の冒険者にとっては正確な情報
が判断しづらくなっている。
「いずれにせよ、明日あたり確かめに行ってみよう。きっと例のエレベーターの先だろう」 そう言って、ロミニが酒場のテーブルを立つ。訓練所を出たばかりの頃は、まだ幼さが残る顔立ちであったが、地下3階で過酷な行程が続いたからか、少し顔がやつれて精悍
な表情となってきた。
「おまえはカント寺院から戻ってきたばかりだろう、ロミニ。もう少し休んでおけ」
ラコルフェがたしなめた。彼女は戦士だけあって体力にも余裕があるためか、いつ見ても凛としており、疲れた様子も感じさせない。
「明日は1日休んで、オータブに治療してもらった方がいいぜ。危険な場所ほど、おまえの力が必要になるからな」 と、サーマインもロミニを気遣った。2人からこう言われてはロミニも素直に頷くほかない。
実際の所、地下3階を探索している時にロミニが習得したマダルトとマカニトの呪文は、まさに必殺とも言える強力なものであり、いかなる強敵が出てこようと、これがあれば勝てるだ
ろう、と全員が思っていた。そのため、彼には万全の体調でいてもらうことが皆にとっても自分の命に関わることなのだ。
翌々日の朝、一同は迷宮の地下1階ダークゾーンの奥にあるエレベータールームにまで来た。文字が刻まれている壁のスイッチを押すと、辺りが小
刻みに鳴動し、うなるような音と共にエレベーターが作動して地下へと降っていく。
ゴウン、ゴウンという規則的な動力音にワイヤーや金属が軋む音が重なってうるさく響くため、このエレベーターに乗っている間は、誰も口を聞こうとしない。そのため、目的地に着くまでの間がとても長く感じる。
「…ようやく着いたか。地下4階ともなると、結構時間がかかるな」
エレベーターの動きと音が止まると、サーマインが一足先に籠から足を踏み出した。地下4階は、これまでにも階段を降りて来たことはあるが、エレベーターで
直接来るのは初めてであった。
オータブがミルワの呪文を唱えると、細い通路の先に扉が備えられているのが見える。
「この扉…何か書いてある…”試練場コントロールセンター”…?」 ブノムが近づいて扉の文字を読み上げた。
コントロールセンター、というおよそ迷宮には似つかわしくない言葉に一同は怪訝な顔をした。
「入るべからず、って書いてあるけど、どうするよ?」 リンパリスが頬髯を掻き毟りながら、皆の方を振り返る。
「こんな迷宮のど真ん中で、入るべからずも何もあったもんじゃないだろう」
「へっ、そうだよな。じゃあ開けるぜ。警戒しておいてくれよ、サーマインさん」
そう言ってリンパリスが険しい表情で扉に手をかけると、戦士達は剣を抜いて踏み込む姿勢を取った。
「いくぜ!―」
勢いよく扉を開けると同時に、3人の戦士が中に飛び込む。扉の先は左右に細い一本の通路が続いており、正面はすぐ行き止まりとなって扉で閉ざされていた。
ラコルフェが前方の扉、サーマインが左、ブノムが右にそれぞれ向いて構えを取った。
しばらくそのままの姿勢で目の前を凝視するが、何者の姿も見えない。
数秒ほど経過した後、3人は力を抜いた。
「…大丈夫のようだ。ではこの通路を…」 ブノムが言いかけた時、突然けたたましいサイレン音が周囲に鳴り響く。
「これは…?」
サイレン音は長くは続かなかったが、その直後に左右の通路の先から物音が聞こえてきた。
「まずいぞ、今のは警報だ!音を聞いたモンスターがこっちに来る!」
ラコルフェはすぐに後ろに下がろうとしたが、背後でオータブが悲鳴を上げる。
「う…後ろからもモンスターが来ます!」
「このままだと三方から囲まれるぞ!早くどちらかに逃げるんだ!」
ロミニも後ろから叫んだ。このままだと無防備な後列がモンスターの餌食となってしまうため、リンパリスが素早く2人を誘導し、入ってきた扉を閉ざす。
「後ろの扉は閉めた!さあ、どうするんだ!ここで戦うのか、右か左のどっちかに逃げるのか!」
左右の通路からはモンスターが迫っており、その数もどんどん増えてくる。前方の扉は閉ざされたままだが、ここを開けても中でモンスターが待ち構えていたら完全に
包囲されてしまうだろう。
ブノムは左右の通路の先を見回し、迫ってくる影を数えて物音を注意深く聞いた。
「右だ!こっちの方が数が少ない。囲まれる前に突破するぞ!」
ブノムが小柄な体を活かして素早くモンスターの影に斬り込むと、たちまち1体の影が血しぶきを上げて倒れた。こちらに向かっていたのはワーラットと呼ばれる鼠型の亜人間であった。
人間のように武器を持っているものの、知能が低いため大した腕前でもなく、今のブノム達であれば簡単に倒せるような相手である。
ラコルフェとサーマインもブノムに続き、それぞれ1匹ずつ斬り倒す。同時に呪文の詠唱を終えたロミニの杖の先からラハリトの火炎の渦が放たれ、ワーラットの
死骸の影から飛び掛ろうとしていたコヨーテの群れを焼き尽くした。
「もうこっちには何もいない!ひとまず奥まで走るぞ」 ブノムはそのまま通路の奥に走り抜けた。反対側から迫ってくるモンスターの数はどんどん増えているため、通路の行き止まりを背にした方が戦いやすいと思ったのだ。
しかし、奥まで来た時に、行き止まりだと思っていた通路の壁に扉があることに
気付いた。
「モンスター配備センター…だと?」
扉には、確かにそう書かれている。すぐにブノムの後を追って走ってきた5人も、その扉の前で立ち止まった。
「この扉は…いったい何のことなんだ?」
「分からない…しかし、こう書いてあるからには、中に何者かがいることは間違いないだろう」
ロミニは扉を見て一瞬考え、皆の方を向いて話した。 「いずれにせよ、さっきの警報はここまで聞こえているはずだから、敵意を持った奴が中にいるのであれば、扉から出てくることも考えられる。そうなる前に、こちらから先手を打った方がいいな」
背後から追ってくるモンスターの集団のことを考えれば、ここで挟み撃ちになることは避けたかったため、皆がこの作戦に賛同した。
「よし、それなら早く中に入ろうぜ。後ろからモンスター共が来てやがる」 リンパリスが扉に手をかけた。
「全員中に入ったらすぐに閉めるんだぞ。いいな」
「おうよ、じゃあ開けるぞ。早く飛び込めよ…!」
鈍い音を立てて扉が開くと、5人が同時に中に飛び込む。リンパリスもすぐに中に入り、急いで扉を閉ざした。
素早く中を見回すと、数人の男がまばらに武器を取り出したり、鎧を着込んだりしているのが目に付いた。彼らはサーマイン達に気付くと、慌ててこちらに向
かって来る。どうやら、警報が鳴ってから想定以上に早く部屋まで来たため、中に居た者達の武装の準備が終わってなかったようであった。
「今のうちだ、かかれ!」
ラコルフェが号令と共に走ると、サーマインとブノムも部屋の中の男達に向かってそれぞれ駆け出した。
「魔術師だ!まず魔術師を狙うんだ!」 ロミニがラコルフェ達に叫んだ。何よりも気をつけるべきなのは、魔術師の使う呪文であった。ロミニはこれまでの冒険で数々の呪文を身に付けており、その強
大な威力に何度も助けられた反面、相手に同じ呪文を使う者がいたら、こちらもただでは済まないだろう、と常々思っていた。見回したところ、部屋の中には魔
術師のような服装をした男が2人おり、慌てて呪文の詠唱を始めている。印や詠唱文からして、かなり高位の呪文を使おうとしているのが分かるため、何として
もそれを阻止しなくてはならない。
「遅い!」 魔術師の1人の前にブノムが旋風のように駆け付け、その勢いもろとも剣を突き出して壁に打ち付けた。魔術師の詠唱は悲鳴に変わり、そのまま息絶える。
もう1人の魔術師にはサーマインが向かっていたが、仲間がやられたのを見て後方に逃げようとしたところを、後ろに回りこんだラコルフェによって袈裟斬りにされた。
「よし、戻るぞ!」 敵陣に深入りした3人は、魔術師が2人とも倒れたのを確認すると、すぐさま引き返して後衛メンバーの前を守る。ここで敵もようやく布陣を整え、こちらに向
かって襲い掛かってきた。残っているのは、重装備を着込んだ戦士が2人と、軽装備の僧侶のような男が2人、そしてキモノと呼ばれる東方の装束を着た男が1
人であった。
重装備の戦士が巨大な斧を振りかざして向かって来るのを、サーマインとラコルフェが防ぎ、ブノムとリンパリスは呪文の詠唱をする僧侶に向かって斬り込ん
だ。魔術師ほどではないが、僧侶の使う呪文も高位のものとなると危険なものが多いと聞いているため、そちらを優先すべきだと判断したのだ。
「みんな、下がってくれ!マダルトを使う!」
ロミニが目の前で斬り合っている仲間達に向かって大声で言った。その杖の先端は青白く光っており、周囲の空気がキラキラと輝いている。ブノムとリンパリスは、それを見てすぐさま横に飛び跳ねて防御の姿勢を取った。
同時に青白い光が杖から放たれて、僧侶達の前で一気に膨れ上がる。光に包まれた僧侶達の周囲では強烈な冷気と激しい風が巻き起こる。冷気に巻き込まれて一瞬のうちに凍てついた僧侶達は、そのまま暴風と氷片に殴り倒されて粉々になった。
「あと3人!一気にたたみかけるぞ!」 ラコルフェが重装備の戦士を払いのけて敵陣を見る。そして敵の姿を数えてみると、1人足りないことに気付いた。キモノを着た男の姿が見えない。
「ラコルフェさん、う…上です…!」
後方からオータブの声が聞こえる。ラコルフェがすぐさま上を向くと、眼前に影が覆いかぶさった。キモノの男が驚異的な跳躍力でラコルフェの頭上まで跳んでいたのだ。
「しまった!―」 ラコルフェは咄嗟に盾を頭上にかざす。だが、キモノの男はそのまま盾を蹴って再度跳躍し、空中で前転してラコルフェの背後を捉えた。そして、天地逆さまの
姿勢でラコルフェの後頭部に向かってカタナを突き、そのまま着地して素早く壁際まで転進した。カタナはラコルフェの兜の隙間をぬって、頚椎から喉元まで貫
通していた。
「ラ…ラコルフェさん!―」 オータブの呼びかけもむなしく、ラコルフェは声も立てずに倒れた。
「ニンジャ…かなりの手練だ…!」 サーマインは剣を構えてキモノの男と距離を取った。これまでにも迷宮内でニンジャと呼ばれる戦士と何度か戦ったことはあったが、この男の身のこなしや鮮やかな技前は、今までの下忍達とは段違いの実力であった。
キモノの男―ハイニンジャは、今度はサーマインに向かって凄まじい速さで突進してくる。ブノムとリンパリスが助太刀に行こうとするも、重装備の戦士2人に行く手を遮られて動くことができない。
「くっ…やってやる!」 サーマインが己を奮い立たせ、突進してくるニンジャに合わせて剣を振るう。しかし、ニンジャは走ったまま身をかがめてサーマインの
剣を紙一重でかわし、その勢いでカタナを振り抜いた。カタナは鎧の隙間からサーマインの脇腹に深く刺ささったようで、思わず激痛にたじろぐ。
その時、周囲に薄黒い霧が立ち込めて、部屋の中にいた全員を覆った。ブノムとリンパリスの前に立つ重装備の戦士2人がこの霧に包まれると、その姿が消えて
いく。ロミニの唱えたマカニトの呪文であった。一定以下の力量の者がこの霧に包まれると即座に死ぬという恐ろしい呪文であり、この戦士達も塵となって消え
てしまったのだ。先ほどの戦いを見た限りの実力からして、おそらくこの戦士には通用すると考えて詠唱した呪文であった。反面、一定以上の力量の者に対して
は何の効果もない呪文であるため、肝心のハイニンジャは再びサーマインに向かって走り出している。
「く
そっ…やはりダメか!」 ロミニが忌々しく呟いた。目の前を塞いでいた戦士2人がいなくなり、すぐさまブノムがサーマインの方に向かって駆けるが、ハイニ
ンジャのスピードには到底追いつきそうもない。既に、手傷を負って動きが鈍くなっているサーマインの目前まで迫っている。
「せめて一矢は報いるぞ…!」 サーマインが覚悟を決め、よろめきながら剣を構える。
その時、ハイニンジャの背に火球が飛んできて直撃した。火球の威力は弱かったものの、ハイニンジャは
不意を突かれて動きが止まり、思わず後方に向き直った。サーマインは、この機を逃さず全力で踏み込み、ハイニンジャに剣を突き立てて深く捻じ込む。
火球はオータブが唱えたマハリトの呪文であった。オータブは黒く長い髪を静電気で揺らがせながら、細い目でハイニンジャをキッと見据えている。これまで彼女が魔法で攻撃することはほとんどなかったが、既にこのランクの呪文まで習得していたのだ。
背後からのマハリトとサーマインの渾身の一撃を受けたハイニンジャは、その場に膝を付いて息絶えた。
「やったみたいだな。とんでもねえ奴だったぜ…」
駆けつけたリンパリスがハイニンジャの死体を検分しながら呟く。
部屋の中での安全を確保した後、ロミニは首を貫かれて絶命しているラコルフェを抱え起こし、オータブは怪我をしたサーマインの治療のためディオスの詠唱を始めた。
ブノムは立ち止まって部屋の奥にある扉を眺めている。彼らは一体何者だったのか、この部屋は何をするための部屋なのか、そして、もし自分がこのハイニンジャと一対一で戦ったら、果たして勝つことができたのか…そんなことを考えながら、佇んでいた。
そういった感じで、このモンスター配備センターを攻略した。
ここは、シナリオのタイトルである『狂王の試練場』と呼ばれる由縁となっている場所で、これまでに冒険者達が戦っていたモンスターは、トレボー王がこのコントロールルームを通して配備した兵だということが、先の部屋のメッセージで分かるようになっている。
ここまで辿り着いた強靭な冒険者にのみ、ワードナ打倒の資格が与えられるということだ。
こんなに強い兵がいるなら、こいつらもワードナ討伐に行かせろよ。
何にせよ、ここで全滅する確率は結構高いため、無事に突破できてよかった。
宝箱も無事に開錠し、中の死の指輪と炎の杖も鑑定成功した。
死の指輪を識別失敗して呪われてしまったらオータブが離脱することになってしまうので、これも結構な博打である。
さて、周囲のマップも全て埋めたので、次は地下5階だ。
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