Ultima 7 プレイ記録 38 スカラブレイの亡霊

バッカニアーズデンでは、どうにも情報が集まらなかったので、別のクエストを先に行うことにした。
賢者アラグナーのノートを手に入れるため、『生と死』の答えというものを探しに行く。
その答えを知るという『苦悶する者』なる人物は、今は廃墟となったスカラブレイの町にいると言われている。

だが、スカラブレイは岩礁で囲まれているため、船やムーンゲートを使っても行くことができない。
以前に町の近くまで行ったことはあったが、その時に桟橋で見かけた怪しげな男に何か謎がありそうだ。




「スカラブレイには、ここの岸辺の向こう側か…。どうやって渡ったものか…」







「いたぞ、あの時のローブの男だ。こいつの乗っているのは、渡し船のように見えるな…」


 フェリーマン

船に乗り、フードを被った人影は、君を無視した。




「この男…そもそも人間なのか…?」




「そうだ!アラグナーから『交霊』の呪文を使うように言われていたんだった。これでどうだ…?『Kal Wis Corp』!」


 フェリーマン

彼は君に手を差し出し、陰気な声で言った。
「私はスカラブレイのフェリーマン…霧の水路を渡るには…コイン2枚を支払うのだ…」




「こちらに反応したぞ!フェリーマン(船の男)というのか…」


 フェリーマン

「そうだ。おまえが金を支払うならば…霧の水路を渡してやろう」




「霧の水路というのは、目の前の海のことか?」


 フェリーマン

彼はグルッと回り、水の西側を指した。
「そこだ…」


 シャミノ

「その…アバタール、本当にそこに行く必要があるのか?」


 スパーク

「どうかしたの、シャミノ?もしかして−怖いの?」


 シャミノ

「そんなわけないだろう!俺は…その…なんだ…もう、気にするな!行くぞ!」


 イオロ

イオロが、見下すような表情を取ったがごとく、目を細めた。
「それで、おまえは怖くないのか?」
彼はスパークに尋ねた。


 スパーク

「いや、僕は骨なんか怖くないよ」
彼はフェリーマンを見て言った。
しかし、彼はむせ込んでいた。


 フェリーマン

「スカラブレイへ行くための…代金を支払うか?」




「ああ、スカラブレイがどうなっているのかは知らないが…行かなくてはならないんだ。ほら、船賃だ」


 フェリーマン

君が幽霊の掌にコインを置くと、その骨ばった指がそれらを包み込んだ。
「乗るがいい…死の島に…行きたいのであれば…」




「死の島か…」


 フェリーマン

君は、彼の目があるべき穴の深くで、青白い炎が揺らめくのを見たような気がした。
彼が溜息をつくと、それらは消えていった。
「何でもない…」


こうして、不気味な水先案内人フェリーマンの渡し舟に乗った。
霧の水路を挟んだ向こう側が、スカラブレイの町である…。








「ここが、あのスカラブレイの町…」




「完全に廃墟だな。まるで破壊されたような跡…。ここで何が起こったんだ…!?」










「くそっ!スケルトンどもが襲ってくる…!」










「倒しても倒してもキリがない!建物の中に隠れよう…!」






「しまった!建物の中は幽霊だらけだ!くっ…こうなったら範囲攻撃魔法で一気に…!」


 クエントン

青白い幽霊が、君の方を向いて弱々しく微笑んだ。




「あれ?この幽霊…昔どこかで見たような…」


 クエントン

「こんにちは、アバタール。以前にどこかで、お会いしましたか?」




「話ができるのか!これも『交霊』の呪文のおかげか…」


 クエントン

君は彼の目に見覚えがあった。
そして、彼の目が色褪せた。
「すいませんね」

彼は首を振って、微笑んだ。
「私はクエントンの亡霊です」




「クエントン?……あ!!思い出した!200年前にスカラブレイで殺された、あのクエントンか!?」


ウルティマ6の時代、スカラブレイで殺人事件が起こった。
その時に殺されたのが、このクエントンである。
ガーゴイルの仕業とされていたが、結局のところ真相は明らかにならなかった。
その時にも、クエントンの亡霊は町を彷徨い何かを伝えようとしていたのだが、当時は彼と会話をすることができなかったのだ。





「亡霊だけあって、200年経っても全然変わってないな。あの時、あんたには、あの事件のことで聞きたいことが一杯あったんだぞ」


 クエントン

「私の話は、長く悲しいものですよ。お時間はありますか」




「ああ、話を聞かせてくれ」


 クエントン

彼は、しばらく考え込み、そして語り始めた。
「私が若かった頃のことです。私はグウェンという名の愛しい女性に出会いました。私は彼女を妻に迎え、幸せに、のんびりと暮らしていました。そして、彼女は、この世界に光をもたらしました。私達は、その子にマーニーと名付けました。嵐の後の涼しいそよ風、という意味です」




「そうだったな、あんたには娘がいたんだったな…。俺は彼女から崇高のルーンを貰ったんだ」


 クエントン

彼は思い出に微笑んだ。
そして、額に皺を寄せて続けた。
「そして、ある日、妻が連れ去られました。何処に行ったのか、誰にさらわれたのか、私には分かりません。それは悪しき者でした。それからすぐに、マーニーは心を病んでしまいました。私はマーニーの健康を気遣い、彼女の世話をしなくてはならなかったので、漁に行く時間が無くなってしまいました。しかし、金は必要でした。だから、とある男と関係を持つようになりました。彼は、ないがしろにできるような者ではありませんでした。そして、私が彼からの借金を返済することができなかった時、私に破滅が訪れました。ある夜、彼が私の所にやって来て、私を殺したのです。私には、振り向いて戦うことも、助けを呼ぶ間もありませんでした」
彼は沈黙した。




「やはり…ガーゴイルに殺されたわけではなかったのか…。その"彼"というのは…」


 クエントン

「しかし、それは、この島が炎に包まれて死の島になった時より、ずっと前の出来事です。私が殺されてからは、私の親友ヨールが、マーニーを自分の娘のように世話してくれました。彼は最善を尽くしてくれましたが、マーニーの病気は重くなるばかりでした。そして数ヵ月後、マーニーは衰弱して死んでしまいました」
彼はそこで話を止めた。




「あの子は、結局すぐに死んでしまったのか…。何と哀れな…」


 クエントン

彼の霊の目には涙が溢れている。
そして、彼は怒って言った。
「今、マーニーの魂は、リッチのホランスに囚われている。あの汚らわしい獣から、彼女を救ってくれ!」

彼は君を掴もうとしたが、彼の手は何の抵抗もなく通り抜けた。


 マーカム

「おいおい、クエン、落ち着くんだ」
マーカムが君に近づいて囁いた。

「彼を許してやってくれ、アバタール。彼は娘の話をした時には、よく我を忘れちまうんだ。気持ちは分かるだろ」




「あんたは…?」


 マーカム

肥満したアンデッドの酒場主人が、にっこりと、身の毛もよだつような笑みをして君に挨拶した。
「ようこそ、旅人よ。この老マーカムの隣に座って、旅の話でもしてくれ。なんせ、ここには旅人があまり来ないんだ」




「この酒場の主人の亡霊か…」


 マーカム

ずんぐりとしたゾンビは、片方の手で口元をぬぐった。
「俺は、ケグ(樽)のマーカムだ」
彼は運んでいた大きなワイン樽を叩いた。


 ポーレッテ

可愛らしいポーレットが、ぶらぶらと歩き回り、マーカムの大きなお腹を叩いた。
「ええ、彼はケグ(樽)のマーカム、その通りね」
彼女は、この老人に愛らしく微笑み見下した。


 マーカム

「それで結構だ!」
マーカムは、この可愛らしい女の幽体の尻に平手打ちを食らわせた。

「ちゃんと仕事して、鹿肉でも持って来い」
彼女はケタケタと笑って、行ってしまった。

彼は陽気な表情で君を見た。
「あの娘には、どうしていいか分からんよ」




「酒場のメイドの幽霊までいるのか」


 ポーレッテ

手を尻に当てた、可愛らしい黒髪の女の子が、目の前に立っている。

「まあ…逞しい人…」
彼女は君の肩をなぞった。

「私をあなたの頭の上まで持ち上げられるんじゃないかしら」
彼女は誘うように笑った。
しかし、幽霊の彼女に触れることができるものやら、君には分からなかった。

「ねえ、ポーレッテって呼んで。私に何のご用かしら?」
彼女は君にウィンクした。




「ご用って言われてもな…」


 ポーレッテ

「何か注文したいの?」




「料理でも出してくれるのか?」


 ポーレッテ

「ごめんね、アバタール」
彼女はケタケタ笑った。

「私達が、お出しできる物は…魂だけ!」


 マーカム

「そいつぁイイな、小娘!」
太った幽霊が笑った。




「なんだ、こんな状況でも、案外楽しそうに暮らしてるじゃないか」


 クエントン

クエントンは落ち着きを取り戻した。
「お許しください、アバタール。私の苦悩を、あなたに負わせる権利はありません。私の可愛いマーニーが、あの…獣に囚われていることを思うのは苦痛です」




「そうだ、さっきホランスと言ったな。昔、スカラブレイの離れ島に住んでいた、あの奇妙な魔術師のことか…?彼が何をしたんだ?」


 クエントン

「かつて、200年前に、ホランスという名の、優れた才能を持つ魔術師がいました。彼は、魔法の研究と、愛しい詩を書くことの2つを愛好していました。スカラブレイの人々は、この類の魔術師は町を守ってくれることを知っていたので、危険は感じていませんでした。しかし、彼は変わってしまいました。まず、彼の美しかった韻律が、狂ったリズムになりました。そして、彼はそのようにしか喋らなくなってしまったのです。以前には町の人々の前でも見せてくれた彼の呪文は、破壊的で暴力的になり、人々は彼を恐れ始めました。その頃に、私は死にました。それから後、彼は世捨て人となり、北部に塔を建てて、そこに篭って出てこなくなりました。そして、ある夜、墓地の墓が開き、死者が歩き始めました」


 マーカム

マーカムが強調するように頷いた。
「おう、そうさ。俺も見たぜ」


 クエントン

「彼らはホランスの塔に向かって行進し、今や、島中を彷徨って彼の命令を遂行しています」




「ホランス…彼は、200年前のスカラブレイで、事件の真相を唯一知っている男だと思っていたんだがな…」


 マーカム

「幽霊は、もう誠実に暮らせねえってこった。ヘッ」
マーカムは、少し不機嫌そうであった。

「俺は、ずっとスカラブレイで暮らしていたが、あいつは怒れる狂人になっちまった。あの馬鹿馬鹿しいリズムと狂った笑い声。ある晩、俺達は雷の音を聞いたんだ。空は星明りで、雲ひとつなく、確か満月だったと思う…」
彼は考え込んでいるような表情をした。

「だが、俺が言ったように、雷の音が聞こえたんだ。そして、あの深くて暗い笑い声が、北の塔から…ホランスのダークタワーから聞こえてきた」
こう言った後、彼はしばらくの間、沈黙した。


 クエントン

「その出来事が起こった時も、私は半分、死の世界で暮らしていました。あの時、塔から奇妙な引力を感じたのです」


 マーカム

しばらくガブ飲みした後、彼は続けた。
「そして、悪いことに…俺がその音を聞いた時は、牛の様子を見に外に出ていたんだ。そいつぁ東にあるから、俺は墓場を通って、そっちに行った。そしたら、あんた、何を見たと思うよ?教えてやろう。墓が裂け始めたんだ。中にいる人が出てくるかのようにな」
彼は目を見開き、また酒をチビチビとやった。




「表を徘徊している、おびただしい数のアンデッドは、あのホランスが呼び出していたのか…。昔、俺がスカラブレイに来た時には、既に彼はおかしくなり始めていたんだな…」


 マーカム

しばらくの間、彼は真剣になった。
「この場所は、かつてはブリタニア中の人々を、ガーゴイルも人間も引っ張りこんでたもんさ。あの炎の前まではな」




「炎?」


 ポーレッテ

「ええ、あの炎の前には」
彼女は身震いした。

「ここのテーブルを綺麗にしていたものよ…」
そう言って、彼女はかがんでテーブルを拭く姿勢をした。
君は、彼女の服の丈が、とても短いことに気付いた。

「…そして、あなたのような、お客さんにサービスしていたわ。あなたみたいにハンサムじゃなかったけどね」
幽霊の顔が、可愛らしく赤くなった。

「でも、それは前のことよ」
彼女は身震いした。

「あの炎のね」


 クエントン

「町のヒーラー、モルドラ婦人が、リッチ・ホランスを阻止する計画を立てていたそうです。彼女が市長に話していました。私は、彼女が何を計画していたのか詳しくは分かりませんが、町の鍛冶屋トレント、錬金術師ケインが関係していたみたいです。ケインが仕事に取り掛かり始めてから、さほど経たない時に、災禍の炎が島を引き裂き、全てを破壊しました。そして、スカラブレイは数日間、炎に包まれました」


 ポーレッテ

「ええ、そうよ。とっても怖かったの!酒場も炎に包まれたわ。私は炎から逃れるために、自分の部屋に逃げ込んだけど、煙に巻かれて咳が止まらなくなっちゃったの。息ができなくなっちゃったわ」
彼女の胸が激しく上下した。
あたかも、その時の事を追体験しているかのようだった。

「とうとう、何もできなくなったわ」
彼女は後ろに回した手を、劇的に額に上げた。

「そして意識が遠くなって、再びここに居たわ。今、あなたが見ているような姿でね」
彼女は子供のように笑った。




「その時に町の全員が死んでしまい、亡霊となったということか…」


 ポーレッテ

「そうよ、とっても奇妙ね。あの炎から逃げていなかったかのように目覚めたわ。実際、至る所に焦げ跡が無ければ、あの炎はなかったんじゃないかって、疑ったと思うわ」




「ホランスは、アンデッドを呼び出しただけでなく、炎で町を焼き払ったんだな」


 マーカム

彼は不愉快そうに見えた。
「ケインが、町に四方から風を吹きかけたんだ。そして、俺達は皆、ここに囚われちまって、ホランスの野郎の奴隷になっちまった」
彼の目の瞳に、小さな青い炎が現れたが、彼が落ち着きを取り戻すと、それは消えていった。




「ケイン…?ホランスじゃなくて、そのケインという者のせいだと言うのか?」


 クエントン

彼は、君の質問を期待していたかのように見えた。
「嗚呼、ケイン、我々をリッチから解放しようとした彼の試みは、代わりに我々を呪い、そのリッチの奴隷としてしまった」


 マーカム

彼の醜い容貌に、うんざりした様子が浮かんだ。
「あの苦悶する魂は、あいつの愚かな失敗で出来上がった穴の中に入り浸ってるよ。あいつには近づきたくないね。あいつは少し狂ってるからな。そうだろ」
彼は、側にあった樽から、コップにワインを入れ直し、それを一口で、ほとんど飲み干した。


 クエントン

「マーカム、どうか、少しばかりケインを哀れんでやってくれ。彼は致命的な間違いをしたが、町を守るための何かを作ろうとしていたんだ」
青白い幽霊は、とても困っているように見えた。


 マーカム

「ああ、俺も、あんたが正しいと思うさ、クエン。あいつが、文字通り地獄の炎を俺達の上に呼び出した時、あいつは俺達を救おうとしていた。俺が人生の盛りで死んじまったことに、憤ってるのさ」
いたずらっぽい笑みが、彼の幽霊のような容貌を再び明るくした。




「苦悶する魂…。もしや、そのケインという男が、俺の探している『苦悶する者』なのか…?」


 クエントン

「彼は今、自身が引き起こした罪による、永遠の苦しみの中を過しています。この町を炎に包み破壊したのです」




「やはりそうか。ならば彼に会いに行かなくては…。さっきの話だと、そのケインの他に、ホランスを撃退する計画を立てていた者がいたようだな。モルドラ婦人と言ったっけ…?」


 クエントン

クエントンは、期待しているようだった。
「もし、あなたが我々を助けてくれるのでしたら、彼女に話すのが一番でしょう。少なくとも彼女は、あのリッチを除去する方法を知っているようです」




「あとは、鍛冶屋も協力してたんだっけ」


 クエントン

「おお、あの哀れな男は、私と同じく、魂がもぎ取られ失われる気持ちを知っています。彼の妻、ロウェナは、歩く死者によって殺されました。そして、モルドラ婦人は、彼女がリッチの隣の玉座に座っているのを見たと言っています。このことが、トレントを幾分狂わせたのだと思います。彼は昼も夜も、奇妙な形の檻を造っています。奇妙ですが、彼はそれを未だに完成させていないようです。彼は、炎の中で死んだことも覚えていないようですが、ホランスに対する強大な憎悪は、まだ彼の心で燃えています」




「そういえば、このスカラブレイの市長はいないのか?」


 クエントン

「市長…」
クエントンは注意深く言葉を選んだ。

「…ええ、彼は、慎重さは『勇敢』の良い側面だと信じています。ですから、彼は、あなたに何らかの助けを申し出てくれるでしょう。ですが、まずは、あなたが彼に危害を加えるつもりがないことを、納得させる必要があるでしょう」




「そうか…。まあ、とにかく…このスカラブレイの町には、昔ずいぶんと世話になった。クエントンの娘にも、変わってしまう前のホランスにも、そして、この酒場にも…。俺も、できる限りの協力をしよう」


 マーカム

彼は本当に悲しそうに言った。
「ここは、かつての俺の誇りであり、喜びだった。このケグは、ブリタニア中どころか、他の場所にも知れ渡っていた。ああ、だが今は、その面影はねえ。全盛期には、貴族、騎士、詩人、商人なんて奴らが来てたんだぜ。まあ、もちろん、ちょっと変な奴らもいたがな」
彼は君にウィンクした。
彼の魂は、挫けてはいないようだ。




「では、『苦悶する者』ケインと、モルドラ婦人なる人物を探しに行こう」


 クエントン

「さようなら、アバタール」
彼は振り向いて、マーカムとの話に戻った。


 ポーレッテ

君がさよならを告げると、ポーレッテは君に駆け寄って、頬にキスをした。
「じゃあね、ハンサムさん」

彼女は、ゆっくりと後ろに下がった。












「この家には、女性の幽霊がいる…」





 モルドラ

彼女は君を間近で見つめた。
「あなたは、アバタール、アバタールに違いありませんね」
彼女は徹底的に君を見た。




「もしや、あんたがモルドラ婦人か?」


 モルドラ

「私は、この町のヒーラーでした。炎が噴火し、ここで暮らす者を滅茶苦茶にしてしまう前までは。また、少々、魔法の秘術をかじっています」
彼女は陰険にウィンクをした。




「あんたは、ホランスを倒すために画策していたらしいな」


 モルドラ

「私が滅ぼそうとした忌まわしきリッチです。彼はある日、自分は死すべき運命ではない、というようなことを決意し、死を回避するための方法を探し始めたのです。そして、彼は自身を不死のアンデッド…リッチとする秘薬を作りました。不幸なことに、彼は以前の偏執狂な振る舞いも合わせ、今日の悪しき者へと変身しました!そして、彼が私達全員に命じる『暗黒の奉仕』こそ、彼の悪です!」




「暗黒の奉仕?」


 モルドラ

モルドラは怒って言った。
「毎晩、ちょうど真夜中に、スカラブレイの霊達はダークタワーへ行き、ホランスが暗黒の存在で有り続けるための力を注いでいるのです。この事に気付いている者は、他にいません。私も、自身を止めることはできないと思います」




「なるほど…。ホランスは、亡霊達の力を吸収して、魔力を高めているということか…」


 モルドラ

「ダークタワーは、スカラブレイの北部に建っています。その構造には、奇妙な点があります。私の魔法の力を浸透させることが、とても難しいのです。その中では」
彼女は言った。

「魂の井戸を見つけられるでしょう」




「魂の井戸?」


 モルドラ

「魂の井戸は、ダークタワーの下にある、とても強力な遺物です。リッチは、そこから力を引き出しています。死者達の魂は、そこに閉じ込められて、ホランスの激しい欲望に苦しめられる運命にあるのです」
彼女の表情に苦痛が表れた。




「そうか…。クエントンの娘マーニーの魂も、そこに閉じ込められていると言っていたな…」




「で、そのホランスを滅ぼすのに、どうして町が火の海になってしまったんだ?」


 モルドラ

「それは、この町の破滅でした。錬金術師のケインを責めているわけではありません。というのは、私が彼にリッチ・ホランスを追い払えるであろう薬の製法のことを、お話ししたからです。少しばかりの材料の、簡単な調合品です。それで効果があるはずです」
彼女は目を細めた。

「私達の市長、フォーシーズが、ヘマをしでかしたのだと思いますわ!」




「そのケインという男が、誤った調合をしたせいで、秘薬が暴発して町が滅んだということか…。そりゃ悲惨だなぁ…しかも自分のせいじゃないって…」


 モルドラ

「彼は苦悶する魂です。彼は町を滅ぼしたことにより、自身を責めています。錯覚の中で、彼は常に自身を焼き殺した炎を感じています。しかし、この状態により、彼は浄化と英知を得ていると思います。彼は生と死に関する答えすら知っていると言われています」
彼女はボンヤリしている。

「言うまでもないことですが、リッチを滅ぼすための魔法の調合薬は、彼から手に入れなくてはなりません。材料の一式は、私が教えましょう」




「町の住民が全員死んでしまった今となっては、リッチを倒せる者がいないからな…」


 モルドラ

「リッチを解呪するための調合物に必要な材料は、不可視のポーションが1つ、回復のポーションが1つ、そしてマンドレイクの抽出液の小瓶が1つ…私は、これらのセットを、家のどこかに安置してあります。覚えておいて、マンドレイクの小瓶は1つだけですよ!処方箋を作るためには、ケインの助力が必要です。私は材料を差し上げられるのみです」




「じゃあ、そのケインにも会ってみるよ。この町には、他にも何人か幽霊がいるんだよな…」


 モルドラ

「スカラブレイの住民について知りたいのですか?」




「ああ、知っていたら教えてくれないか」


 モルドラ

「分かりました、アバタール。何のことを知りたいのですか?」




「波止場にいる、あのフェリーマンとかいう怪しげな船頭については知ってるか?」


 モルドラ

「彼の者については、ごく僅かなことしか知りません。彼は、リッチが墓から怒れる死者を呼び起こした時から、ここにいます。私が思いますに、あなたがホランスを倒したとしても、彼はそこに残り、課せられた仕事を続けるでしょう」
この事を君に話した時、彼女は少し悲しそうに見えた。




「そうか…。明らかに人間じゃなさそうだからな…」




「あと、ここの市長は?秘薬の分量を誤って伝えたとか、さっきチラッと言っていたが…」


 モルドラ

彼女は、しばらく不機嫌そうに君を見た。
「あの、大ヘマのウスノロについて、言うことは何もありません」




「ひどい言い様だ…。まあ、話が本当なら、その市長のせいで町が滅んだようなものだからな…」




「あとは…あの気のいい酒場の亭主はどうだ?マーカムとかいう名前だっけ…」


 モルドラ

彼女は上目づかいで微笑んだ。
「あの悪童は、素敵な酒場を開店しました。この地方のバッカニアーズデンのようです。あなたも納得すると思います。彼は少々荒削りですが、良いワインの仕入れ方を分かっています。それに、彼の酒場女の趣味も、悪くはありません」
彼女はウィンクした。

「ポーレッテに会っていたら、私の言っていたことが分かるでしょう」




「ああ、そういえば、可愛らしいメイドがいたな」


 モルドラ

「態度は少々子供っぽいところがありますが、とても可愛らしい娘です。彼女の父は、こちらの世界の人ではなかったと思います。彼は変な発音で喋り、その外見も、ブリタニアの人々とは大きく異なっていました。ですが、この国に、他の世界から多くの人々が来ていることは、あなたもよく知っているはずです。噂ですが、ロード・ブリティッシュ自身も、別の世界からやって来たと聞いたことがあります。そのことを想像してみてください」
彼女の顔に、ずる賢そうな表情が浮かんだ。




「そうだ…あんたは、あのクエントンの過去についても知っているか…?」


 モルドラ

「あの哀れな男の人生は、深い悲しみに満ちたものでした。彼の病は、私の魔法でも治すことができません。彼の妻グウェンは、彼らの娘のマーニーが生まれた数年後に、たちの悪い男達の集団にさらわれました。私は、彼女に何が起こったのか知っていますが、この哀しい出来事はクエントンには伏せています。彼女をさらった男達は、その美貌から、彼女が高貴な女性だと思っていたようです。彼らが、グウェンが貧しい漁師の妻だと知った時、残虐に彼女を強姦し、悪名高い売春宿に売り渡しました。幸運なことには、彼女はそこで間もなく死にました」
モルドラは深く悲しんでいた。




「…200年前のスカラブレイでも、その話は断片的に聞いた…。娘のマーニーは孤児になってしまったんだよな…」


 モルドラ

「ええ、ええ、話はまだ半分でした」
彼女はクエントンの悲しき人生の叙述を続けた。

「マーニーは、母親が誘拐された後に病気にかかり、墓に片足を突っ込んだような生活を数年間送りました。ついに、クエントンは世話を続けることができなくなり、マイケルという名の乱暴な男に金を借りました」




「マイケル…覚えているぞ…!スカラブレイの郊外に住んでいた男だ!ほとんど町に寄り付かないし、話しかけてもロクに答えてくれなかったな…」


 モルドラ

「彼は『ブレード(刃)』という渾名が付いていました。クエントンが借金を返済できなくなった時、ブレードは彼を殺しました。しかし、痛ましい物語は、これで終わりではありません。クエントンの死後にも、この霊性の町には彼の怨霊が残りました。彼は愛するマーニーの成長を見守りましたが、彼女の病状は悪化し、とうとう死んでしまいました。クエントンの死後にマーニーの面倒を見ていたヨールという男が、彼女の遺体のために神殿を建てました」
彼女はしばらく沈黙し、目を伏せた。

「あなたがホランスを駆逐すれば、クエントンは愛する者に出会えるでしょう。それが、私の本心からの望みです」




「クエントン殺人事件の犯人は、マイケルだったのか…。確かに、怪しいと言えば一番怪しかったが…」


 モルドラ

最初に出会った時から初めて、彼女の表情が冷静になった。
「この話を私が知っているのは、ユーの高等裁判所にいた、私の弟のリナルドから聞いたからです。ブレードと、クエントンの妻をさらった海賊達が捕縛されたことを、彼が手紙で知らせてくれました。海賊達は、残った余生をダンジョンの最深部の独房で過ごし、ブレードはギロチンの刃を見上げる運命となりました。相応しい死に方だと、あなたも思いませんか?」




「クエントンも少しは浮かばれそうな話だな。しかし、痛ましい事件だ…」




「まあ、これで積年の謎が解けた。色々と教えてくれて、ありがとう。とりあえず、ホランスを倒すための薬の材料を集めて、ケインに会いに行こう」


 モルドラ

「さようなら、若きアバタール。お気をつけてください。あなたが病気にかかった時は、ここに戻って来て、あなたの病気の世話をさせてください」
君が去る時、彼女は親切に微笑んだ。


スカラブレイの町で起こった出来事は、あまりにショッキングであった。
かつての崇高の心の町は完全に滅び、人々は死して尚、永遠の苦しみの中にいる。
ウルティマ6では明らかにならなかったクエントン殺人事件の真相は知ることができたが、ここには更なる因縁が待ち構えているようだ。



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