五つの試練
自作シナリオの思い出
五つの試練で自作シナリオ「聖者の経典」を作っていた時の思い出です。
ゲーム本編のネタバレはほとんどありません。
私がシナリオを自作しようと思い立ったきっかけは、五つの試練のシステムでウィザードリィの#1や#3ができたら……と度々思っていたことに始まります。
シンプルさゆえに完全なバランスと言われる初期の3作ですが、五つの試練における二刀流、後列攻撃、モンスター召喚、力と生命以外のパラメーターの機能、そしてパーフェクトなインターフェイスとグラフィックなどなど、絶対にこれらがあった方が面白いんじゃないかと、誰もが思うはずです。
当時は既に旧作のコンセプトを持ったユーザーシナリオが多く出ていましたが、自分がやりたかったのは、#1〜#3のそのままのコピーでした。
そこに、五つの試練のシステムが乗っかっていれば、それでよかったのです。
シナリオエディタをちょっといじってみると、素人でも割と簡単に扱えそうだったので、色々と試してみることにしました。
当初は自分でやって楽しむため、#1の迷宮と、#1〜#3のアイテムやモンスターのデータをそのまま丸写しでぶちこみ、あとは適当なアイテムに二刀流や魔法効果アップなどを追加して悦に入っていました。
Wiz#1俺バージョン(笑)みたいな感じで。
その後、ちょっとずつ気に入らない部分に修正を加えていくわけですが、例えば二刀流の設定や呪文威力アップの効果などは、旧ウィザードリィのバランスを簡単に崩すため、その都度モンスターも含めたデータの多くを変えなくてはならず、なかなか満足いくものに仕上がりません。
特にバランス面に関しては、コピーをいじるよりも、最初から新しいものを作った方が確かだということに、そのうち気付き始めます。
こうして聖者の経典の製作が始まりました。
ただ、当初からウルティマをテーマにしたオリジナルのものにしようとは思っておらず、あくまでWiz#1〜#3を、新システムに対応したバランスにする、といった程度の目標でした。
全武器二刀流可能、というアイデアだけは最初からあったので、これを元にまずは武器の設定をしていきました。
最初はエディターをいじりつつやっていたのですが、数値を1つずつ入力していくのは面倒だったし、全体的なバランスが掴みにくかったので、エクセルを使って入力していました。
こういう時のエクセルってほんとステキだわ〜。
レベルを入力したら各職業で装備した時のダメージ値が表示されるような式を入力しておいて、まずは各武器の攻撃力をざっと決める作業をしました。
大体どのレベルで装備するかの目安を付け、習得レベルを変えることのできない魔術師の呪文の威力と比較しつつ、二刀流や両手持ちでも呪文の威力とそこまで離れることのないようにして数値を付けました。
おおまかな数値が決まれば、あとはそれを元に特殊効果などを設定するだけなので、この作業はなかなか楽しかったです。
この武器ちょっと強くしちゃうぞwとか、こんな効果があったらたまらんだろwとか、妄想はとどまりません。
で、次に武器で設定したダメージ値を元にモンスターデータを作成したのですが、モンスターのデータは入力項目が非常に多いため、まともに入力していると心が折られそうになりました。
なので途中からは再びエクセルを使って、攻撃・守備・HPの項目を10段階で入力すればレベルに応じたパラメーターが自動的に設定される、という計算式をつくり、簡易的に入力していました。
モンスター各個の個性という点では、ある程度型にはまったものになってしまいますが、250体を超えるモンスターの総合的なバランス調整をする分には非常に便利でした。
計算式を変更すればモンスター全部の数値が変わるので、何より手間が省けます。
とは言え、特殊攻撃や抵抗力、仲間モンスターなどは自分で各個入力する他なかったので、やはり大変なことには違いはなかったです。
結局、アイテムとモンスターの入力だけで4〜5ヶ月はかかりましたが、これは適当なペースでゆっくり進めていたから、というのもあります。
そもそも、ちゃんと完成させようとかいった気持ちは、この時は非情に希薄でした。
で、ようやくアイテムとモンスター、あとついでに宝箱の設定が終わったのですが、肝心のストーリーと迷宮は何一つ考えていませんでした。
ウィザードリィは伝統的にストーリーにさほど重きを置かれていないので、データ部分さえできれば、あとは何とでもなるだろうと、当初は軽々しく考えていたのです……。
元々のきっかけが#1〜#3のリメイクをやりたいということだったので、それらの迷宮とシナリオを元にしてもよかったのですが、製作作業を開始した頃には既にこれらのコンセプトを持った名作ユーザーシナリオが数多く公表されていたため、さすがに同じような内容を作るのもなぁ……といった感じでした。
じゃあどうしようかとしばらく考えましたが、オリジナルなストーリーをつくる能力の乏しい私では素晴らしいシナリオを考えられる気がしなく、結局模倣を選びました。
ネタ元は受けが良さそうなドラクエ3にしようかと思ってたこともありましたが、ドラクエはあからさまに模倣すると色々とまずそうなので、ご存知の通りウルティマとなりました(じゃあウルティマなら模倣してもいいのかって話ですが……)。
その後はウルティマの内容に合わせてアイテムやモンスターの名前を変えるのですが、ウルティマってオリジナルな名前の武器やモンスターがほとんど登場しないんですよ。
最強装備がハルバードとかプレートメイルとかなんですよ。
なので「聖者の経典」のアイテムやモンスターのほとんどが、当初設定したままに旧ウィザードリィのものを踏襲しているのは、こういった理由があります。
け……決して考えるのが面倒だったからじゃないんだからね!
そんなこんなでウルティマ4のコデックス探求を最終目的とした簡単なストーリーが浮かんだのですが、迷宮の構造やイベントの設定をするのが最後の難関です。
これには本当に苦労しました。
なんせ全くビジョンが浮かび上がらない。
パズルのような面白い仕掛けの迷宮などは、そうそう思いつくものではありませんし、かといって単純な迷路が続くだけだとイマイチ……。
ウルティマのような広大なフィールドにしようとしても、なかなか上手くいかないし、間にストーリーを挟もうにも、徳を極めてアバタールになるというウルティマ4のストーリーは、五つの試練で再現しようとすると非常にチープな紙芝居になりそうでした。
色々と試みようとしましたが、これだ!といったものが中々浮かびません。
こうして試行錯誤した結果、ダンジョンの各フロアのテーマを8つの徳に対応させるようにして、それに応じたイベントを入れていくという手順で、何とか形は整いました。
というか、悩んでもクールな内容の物はできそうになかったので、そのあたりで折り合いを付けました。
私はテーマが決まらないと何も作り出せないタイプのようだったので、こういったストーリーやシナリオ概要を決める事こそが一番最初にやるべきことだったかなと、当時苦労して迷宮を作成している時に思いました。
で、なんとか8徳の階層が出来上がりました。
ポイントを通過するためのイベントアイテムや隠し扉などは、個人的にあまり好きではなかったので迷宮には組み入れておらず、構造は比較的単純なものとなりましたが、そこは私の力量不足。もうちょっと面白い仕掛けは多く作ることができたと思います。
裏ダンジョンは、ウルティマをテーマにするならああするしかない!と思っていたので、比較的ビジョンがはっきりしていて造り易かったです。
もうちょっと長いボリュームを想定していたのですが、第2層目で当初設定していたアイテムとモンスターが全部お終いになってしまったので、そこで区切りをつけました。
新たに追加する気力なんて勿論ありません。
この迷宮作成の時が精神的にも一番きつかったし、早く完成させたい一心で一日の作業時間も長かったです。
期間は1ヶ月くらいだったと思います。
そして最後に2〜3回テストプレイをして、最終的なバランス調整やイベント・迷宮の不具合をチェックし、待望の完成となりました。
タイトルは本当は、ウルティマ4のタイトル「Quest of the Avatar」の直訳である「聖者への道」にしたかったけど、ファミコン版ウルティマ4とかぶっちゃうから泣く泣く断念。
製作開始からの所要時間は約半年でした。
まあ、アップロードした後にも何度も修正しましたので、完成とは言い切れないかもしれません。
それらチェックしてくれた方々並びに、プレイしてくれた方々には本当に感謝です。
こうして、長かったシナリオ製作は終わり、私は標準的な人間の生活を取り戻したのでした……。
……といった内容の思い出話でした。
五つの試練でシナリオを自作したい、という方がいらっしゃいましたら、少しでも参考になれば幸いです。
こうして、やっとの思いで1つ作り終えてみると、やはり自分なりの不満点などがいくつかあるもので、あの膨大な作業をもう一度やるのはもうイヤだと思う反面、満足いくような次回作も作ってみたいという気持ちもあります。
まあ、それがいつになるかは分かりませんが……。
2010/6/10
←五つの試練メニューへ