Ultima Savege Empire マニュアル

Some Reflections on the Flore and Fauna of the Valley of EODON(イーオドンの谷の動植物に関する考察)


ある人間が、その個人的業績によってではなく、むしろ千載一遇の幸運を掴んだことで歴史に名を残すとしたら、なんとも心痛い限りであるが、思うに今の私が その境遇にある。いずれにせよ、科学界は私がこの驚嘆すべきイーオドンの谷の唯一の記録者であることを認めることになる。私にはその資格が十分にあると、 絶対の自信を持って宣言する。さしずめ私は原始時代のジョンソンにとってのバズワースといったところか。それにしても、これはまったくの幸運だった。この 谷を私に発見させたのは、科学的研究の結果でも人類学的探検の結果でもなかったからだ。
友人のジミー・マローンが言うには、私のこの記録が日の目を見る前に彼はこの谷の発見の物語をまとめて出版する予定であり、その結果、彼のボロ手帳の残り 少ない白紙ページに私が発見の記録を重複して記載する必要はない、と教えてくれた。そこで私は、当初の方針を変えて、この谷の全体像を簡単に説明したいと 思う。この七珍万宝の環境を世界の誰よりも早く諸君にお教えしよう。また将来、もし可能ならば、さらに詳しい内容のエッセイをお送りできたらと願ってい る。
イーオドンの谷は科学者にとって貴重な宝や決定的な情報が詰め込まれたタイムカプセルのような存在だった。しかし、そこの構造的欠損が生じたため、外の湿 気が流れ込み、中の貴重な資料のいくつかが破壊されてしまった。我ながら実に巧い比喩であると思うが、まさにこれが真実を描写しているのである。この私に 与えられた少ない紙面で、私はその"宝"を見つめ、その起源とそれらが受けた異変を探る仮設を導き出したいと思う。



イーオドンの人々

イーオドンの谷に住む人々は、一部の非常に貴重な例外を除いて、いまだに農耕革命を体験していない前農耕民族である。マローン君の一般向け雑誌の読者諸君 のために噛み砕いて説明すると、彼らは自分たちで食料を育てることをしない、狩猟採取民族だということだ。つまり、狩りによって手に入れた獣の肉を食べ、 原野から採取した野生の植物や木の実や果物で栄養を補っているのである。この一般原則に反した例外的存在は、ナウワトラ族である。彼らは他の種族グループ よりも幾分進歩しているように見える。
とちらにせよ、この谷の住民はみな小さな部族グループを作って生活している。どの部族もその起源は地球上のまったく異なる地点と思われるが、彼ら同士に明 らかに相当程度の類似性が認められる。現在では、ほとんどの部族が非常に類似したほぼ共通の生活様式を持つに至っている。
各部族は世襲酋長制によって統治されている。酋長は部族の政治的指導者であり、部族民同士の調停者であり、頻繁に発生する部族間紛争の指揮官であり、来訪者や来賓を迎える部族の代表でもある。
部族の統率のかなめには、もうひとり非常に重要な存在として心霊的指揮者である"祈とう師"がいる。部族の祈とう師は谷の住民に崇められている特定の"自 然の精霊"の意志を人々に伝えるという重要な儀式を司る。この儀式についてはあとで詳しく述べる。祈とう師はまた、酋長の補佐役であり、婚礼(婚姻の正当 性についても精霊の承認を得る儀式)をとり行い、さらに部族で最も位の高い医師ともなる。
酋長と祈とう師より下位に並ぶ部族民の身分階級は私のような外部の人間には詳しく判別することは難しい。ただし、戦士は部族の中で特別な地位にあるよう だ。彼らは、ジャガーのようなジャングルの獣に対して特別な絆のようなつながり、あるいは類似性を備えている。いくつかの部族では、明確な男子家長制度が あり、女性は二級市民と見なされている。反対に完全な女子家長制度を持つ部族が少なくとも一部族存在している。その他の部族では一般的に女性の地位は低い が、特に高い技能を有する場合は、女性でも戦士になることが許されている。
長年にわたって部族同士の近親化は相当程度進行しており、他部族民同士の混血化によって、外世界の故郷の文化を純粋に受け継いでいる部族を見つけることは 難しい。しかし、多くの部族は数百年にわたって独自の人種的文化的特徴を受け継いでおり、彼らは実に魅力的な調査対象となっている。また、その起源を推測 するのも興味深い。
それぞれの部族を個別に紹介する前に、この世界の人々に関して、私が最も感銘を受けたことについて語らせていただきたい。それは、容易に予測がつくことで はあったが、それを認識した後でも、いまだに私の心を掴んで放さないこと…つまり、この自然環境に彼らが順応してきた過程である。有史以前の爬虫類や太古 の獣たちがひしめくこの土地で、彼らの文化、図解法、民間伝説などがこの環境をみごとに反映している。
たとえば、ある部族の酋長の精巧な頭飾りは巨大なプテラノドンの頭蓋骨とクチバシから作られていた。部族の領土の境界線を示す木製のトーテムポールは肉食 恐竜の特徴を表現している。戦士たちは650万年前に絶滅したと信じられていた恐竜の皮で作った盾を持ち歩いている。洞窟の壁画には戦士たちがトリケラト プスやアンキロサウルスと戦っている姿が描かれている。このような当事者である原住民も意識しない日常的な光景はこの人類学者にとっては驚異でありこの上 ない喜びである。願わくば、これから先時間の許す限り私はこれらを研究していきたい。そして、さらにこの分野に関する見識を深める喜びを味わいたいと思っ ている。
この谷のすべての人間は共通の言語を話している。いくつかの語源となる言語が混合されてできた言語だと思われるが、その中心になっているのは中央アメリカのナウワ語である。部族ごとの方言を調べると、意外にそこに彼らの真の起源を見ることがある。


ナウワトラ
ナウワトラ族は間違いなくこの谷の外の世界であるアステカ文化の流れを受け継いでいる。これは私の持論だが、ナウワトラとアステカはひとつの文化が起源に なっている。その文化圏の人々が遥か昔にこのイーオドンの谷に移住してきたに違いない。"ナウワ"とはまさにアステカ人が話していた言語の名称そのものな のだ。
ナウワトラは外世界におけるその兄弟と同様、壮大なピラミッド、寺院、住居などの建造物を石で作っている。金製品も作る。太陽に対してある種の敬意も払っ ているが、ナウワトラの場合は太陽を神格化したり直接的に崇拝するようなことはない。彼らは他の部族と同様に谷の精霊を崇拝しているのであって、そこがア ステカ人と異なっている部分だ。しかし、ごく最近までのナウワトラの指導者の行動から、人間をいけにえにする習慣がかつてはナウワトラにもあったことが確 信できる。
彼らは、他の部族と比較して技術力において、幾分進歩している。伝統的に武器は石で作り続けてはいるが、装飾品には銅や青銅の細工が見られる。そして、彼 らは紛れもなく農耕民族である。彼らは食料のほとんどを自ら栽培して収穫している。狩猟と採取はごく一部の補助的食料を得るために行われているに過ぎな い。

ヨラルー
イーオドンの谷でも最も深いジャングルに住む黒人部族である。彼らの起源がアフリカであることは明白である。だが、アフリカのどの地域からやってきたかは、私には特定も推測もできない。
私はしばらくの間ヨラルー族と生活を共にする機会に恵まれたのだが、そこで感じたことは、彼らは、この谷のどの部族よりも文明化されているということだ。 文明と言っても、技術的に発展しているというのではない。洗練された部族の法律を有していることや、他部族に対する理解の寛容さを意味しているのである。
イーオドンの共通言語におけるヨラルーの方言にはバンツー語の要素が含まれていると、私は分析した。また、彼らが好んで使用する武器には大方の予想通りスピアやナイフがあるが、ヨラルーの戦士の中には石の突起を埋め込んだ大きな棍棒を使用する者もいる。

バラコ
谷の北方に住むバラコ族を観察する機会は残念ながらこれまであまりなかった。彼らは高地民族であり、切り立った岩場を生活の場として好む。また、厚い毛皮 を全身にまとっている。戦士たちが衣服にしている毛皮はバラコ族の山々に多く棲息する熊の毛皮であることから、彼らは非常に勇敢な部族だと言える。
バラコ族は母系社会である。部族の長は女性酋長から女性酋長へと引き継がれる。他の部族でも何らかの理由で女性が酋長になった例はあるが、バラコの場合は酋長は女性であることが原則なのである。
人種はコーカサス系、排他的(谷の部族の中で最も独立性の強い部族である)、攻撃的であり、部族民は非常に強い家族意識のもとに結束している。共通言語に おける彼らの方言は他のどの方言よりも原始インド・ヨーロピアン語族の特徴を強く含んでいる。そのため、彼らは有史以前のヨーロッパから渡ってきた民族で あると推測される。

バラッブ
この失われた谷でも辺境地域にあたる台地の頂上に住む珍しい種族である。肌は黄色、目にはわずかに蒙古ひだが認められる。これらの人種的特徴と共通言語における非常に特徴的な方言を総合して考えるに、彼らの起源は数百年前のアジアの東部および東北部であると推測される。
バラッブは他のどの部族よりも高い地域を生活の場にしている。彼らの指導者になる者は現世的政治手腕と霊的能力を合わせ持っている必要がある。すなわち、 酋長は同時に祈とう師でもあるのだ。バラッブ族は登山の名手である。彼らの軍事コンサルタントを務めたこともある私の友人の話では、戦闘でバラッブたちは 高いところに登り、敵の上へ雨のようにスピアを降らせる作戦を好むという。
彼らは礼儀正しく、いろいろな面でヨラルー族に近い文化程度を有しているが、ヨラルーのような他部族との交流は少なく、むしろ排他的なところがある。

ディスキキ
ディスキキ族の共通言語における方言からは、事実上、何の手掛かりも得られないが、明らかに南太平洋の種族が共通して持っている文化的特徴が見受けられ る。性格は無責任で、他の部族から敬遠されがちな人々ではあるが、当人たちは実に陽気で音楽好きで谷中で評判の色好きである。
祝宴などにおける彼らの振舞は滑稽であり、ときには奇異であるが、彼らの祝賀に出るたびに、私はキャプテン・クックがどこでどのような死に方をしたかを思い出す。

ジュカリ
ジュカリは活発に活動する火山地帯に住む敬けんな苦難の部族である。彼らの生活は食糧を確保すること、火山学者が垂涎しそうな活火山地帯で大地を揺さぶり 山から"火を吐かせる"精霊をなだめること、敵対する近隣部族のハークール族との準戦闘状態を保つことという3つの単純な作業に集約されているように思え る。
ジュカリ族は谷の部族の中で最も原始的名部族に属する。彼らの方言からは、その起源を推定できるだけの手掛かりは得られない。

クーラック
この失われた谷にあって、最も興味深い文化を持つ部族である。もともと、南米のインディオが起源と思われるが(少なくとも彼らの方言がそうである)、他部 族との交流が最も盛んで、その恩恵を大きく受けている。言い伝えによれば、彼らは他の部族から追放された者、中でも追放された戦士や逃亡者を多く受け入れ てきたとのことだ。これによりクーラック族は多彩な遺伝子の宝庫となり、人種の"るつぼ"的部族として知られるようになった。
ジャングルの奥に住むクーラック族はジャガーを信仰の対象としている。また、部族の特定の人間は野生のネコ科動物と意志の疎通がはかれる能力を開発している。
長い間、ヨラルー族と戦争を続けてきた歴史があるが、クーラックとヨラルーは色々な面において類似点の多い部族である。

ピンディロ
ピンディロが北米インディアンの一部族あるいは数部族の遠縁であることは、ほとんど間違いない。方言の中のいくつかの言回しはスー語族を思い起こさせ、遊牧的平原民族の生活様式も彼らの起源を暗示している。
面白いことに、ピンディロ族は構造的に男子家長制社会であるにも拘わらず、多くの女性酋長を出している。現在、これを執筆している時点での酋長も女性である。

ウラリ
私が最も腹立たしく思う部族…個人的にも学術的にも腹立たしく思っている…は、ウラリ族である。これ以上謎めいて排他的な文化を他に探すことは難しいだろう。
ヨラルーとクーラックの言い伝えによれば、彼らはかつて、ナウワトラの東、谷の中央部にある湿地帯に住んでいたとされている。しかし、数百年間をかけて湿 地帯は次第に乾燥し、彼らの生活範囲が狭められてしまった。ウラリ族にとって最も快適な生活環境は沼に囲まれていることなのである。
さらに言い伝えによれば、あるとき、ウラリ族は部族ごと消えてしまったそうだ。それ以後は、非常に長い間、ウラリ族の消息はわからないままだった(現地の 人間は消息を絶っていたのは1000年間だと主張しているが、それは疑わしい。そのような古代からの言い伝えによる数字の誇張は10で割った数が妥当であ ることが多い。したがって、恐らくは100年程度のことだったろう)。
ウラリの若い世代なら渋々ながら認めるであろうが、その当時、彼らの調査隊が最も大きな沼のある場所を発見し、そこへ部族ごと密かに移住したのである。数 年前、ウラリ族から追放された人間が見つかり、ウラリ族がまだ健在であることはその当時からわかったのだが、数ヶ月前からウラリ族と他の部族との接触の機 会が増してきた。あろうことかウラリの酋長は部族の人々を操って、他の部族への侵攻を始めたのである。
しかし、ウラリ族は依然として謎に包まれている。彼らは、彼らの沼に囲まれた隠れ里への行き方をいまだに口外しようとしない。わかっているのは、そこは彼 らが昔住んでいた場所からそう離れてはいないということだ(もし遠く離れた場所であったなら、他の部族の言い伝えに彼らが消えたと語られる前にどこかへ移 住していく彼らの様子が語られるはずだからである)。
外の世界のどこに彼らの起源があるかを推測するのが非常に難しく、むしろ不可能である。そのため、学術的な立場においても、私は彼らを腹立たしく思うので ある。強盗、浮浪者、追放者の登場頻度が圧倒的に高い彼らの言い伝えや、方言や人種的特長の混交具合、それにその他のデータを統合して考えるに、彼らはこ の谷を起源とする種族であると推測される。身の安全を確保するために沼地に逃げ込んだ逃亡者たちが集ってできた種族ではないだろうか。そのことから、彼ら の疑い深い民族的特質の原因が説明できる。しかし、これはあくまでも仮説に過ぎない。ウラリ族の真の歴史をたどるには、非才な私ひとりの手には負えない。 もっと多くの優秀な言語学者と人類学者の助けが必要である。

ハークール
最後にとっておきの部族、ハークールを紹介しよう。私の第一印象では、彼らが、不格好で異常に毛深いこと、そして特徴的な顔つき(張り出した顎、眼窩上の突起、大きな鼻)をしている要因は近親交配と恐らくは文化的淘汰の結果であろうと思えた。
しかし、それは正しくなかった。以前、怪我をしたハークール族の戦士を診察したのだが、私が特に注目したのは頭蓋骨の大きさ(脳の容積はホモサピエンス・ サピエンスのものよりも大きかった)、表現力に乏しい声帯、思考パターン(他の部族の人間に比べて、論理性に乏しく、極端に直感的で本能的である)であっ た。そこから、ひとつの明確な結論が導き出された。私の目の前で生きて生活しているのは、ホモサピエンス・ネアンデルタレンシス、つまり、外の世界では3 万年前に姿を消したネアンデルタール人だということだ。
もし私が診察したハークールがこの驚異の生存を証明する唯一の証拠であったとしたら、身体的条件と生まれ育った状況によって、たまたま、それまで隔絶され ていたネアンデルタールの肉体的特徴が保存していたポケットが口を開き、このような人間を作ってしまったと解釈し、喜んで彼を帰したことだろう。しかし、 下でも述べているように、生き残りは彼が唯一ではなかった。
皮肉なことに現代人類学では、ネアンデルタールは現代人が強く頭に描いている野蛮で膝の曲がったいわゆる"原始人"の姿よりも、もっと背筋が立っていると されていた。事実、きれいに髭を剃り、体によく合った服を身に付けたネアンデルタールの姿は、現代人にとっては少々うんざりするほど陳腐なイメージだが、 ハークールはむしろそんな固定的イメージに近い姿をしている。数千年におよぶ近親交配と遺伝性関節炎によって、イーオドンの谷のハークール族は、低俗な恐 竜映画の通行人に瓜ふたつの背中と膝が曲がった"原始人"になったのである。



部族と武器

すべての部族には身分階級がある。酋長を頂点に、祈とう師、酋長の子供、年老いた戦士などなどと続くが、イーオドンの谷に住む人々は武器にも序列があると信じている。
ある一面では武器の序列は具体的な根拠に基づいている。たとえば、石の短剣よりもスピアのほうが大きな攻撃力を有することから、スピアのほうが短剣よりも "強い戦士"と見なされるのである。また、霊的側面からの序列もある。精霊と波長の合いやすい武器が数種類あるのだが、それらなどは位が高い。
谷の人々の間では、ナウワトラの石の剣が武器の"酋長"とされている。それに続く武器の価値序列は次のとおりだ。力の強い戦士が愛用する大型の両手式棍 棒、手投げスピア、多くの戦士が使っている石斧、ほとんどの戦士が戦争と狩の両方に使用する原始的な短弓、ムチ、ロックハンマー、武器というよりは道具に 近い非常に鋭利な黒曜石のナイフ、そして一番下が比較的珍しいブーメランとなっている。
防具やシールドにも階級的序列がある。ステゴサウルスの背中の骨質板で作ったシールドが防御の部の"酋長"である。動物の皮のシールドは樹木の皮のシールドよりも暗いが高いが、どちらも布製のシールドよりは強い。
現代人がイーオドンの谷に迷い込んだことによって、20世紀の科学技術の産物に影響を受けた原住民たちの武器事情も変化してきた。高性能の狩猟用ライフル は例外なく谷で最も強力な武器となった。この土地で集められた材料を使って私が製作した粗末なライフルや手投げ爆弾ですら、彼らの古来の武器よりも遥かに 強力であり、意外に役に立ってくれた。私たちと共にこの土地にやってきた研究室に備え付けておいた頑丈な消防用斧も地味ながらも有用な武器となってくれ た。もっとも、それが最も威力を発揮したのは谷で一番高く堅い木を切り倒したときだ。これには、どの部族のどの道具も太刀打ちできない。また、アバタール が持っていた鉄製のボウイナイフも、原住民が使用しているカミソリのように鋭い石のナイフよりもわずかだが優れていた。



人々の神秘主義

人はパン…谷の原住民の場合は主食は肉だが…のみにて生きるにはあらず。この谷では人々の文化の大きな部分を心霊的な要素が占めている。
それぞれの部族には、ひとりの祈とう師と2〜3人の弟子がいて、谷に住むと信じられている自然の精霊との交信を職務としている。精霊との交信には様々な目 的がある。助言を求める、問題が発生した場合に解決のための勇気と健康とを祈願する、信仰の対象となっている動物の殺害の許しを得る、将来を占うなどであ る。
これらはすべて、ともすると平凡な光景に見えるかもしれないが、儀式が求められた現象を現実に引き起こすという点で特異である。祈とう師たちは純情な同朋たちに対して"呪術"としか思えないような技を披露することに非常に長けているのである。
"呪術"を演じるには、祈とう師は呼び出したい精霊の象が刻まれた小さな石を差し出し、その精霊の好物を捧げる。たとえば、ひと掴みの穀物を風の中に撒 く。そして、祈とう師は呪文を唱えながら精神を集中させ、あるいは瞑想する。すると間もなく、面白い現象が現れるのである。
勘違いをしないでいただきたいが、この谷では、祈とう師本人も含めてこれをインチキやペテンであると疑う人間はひとりもいない。無意識のうちに集団催眠術 を使っているのか、ヒステリーの兆候を作り出す生物学的手法を使っているのか、その他の方法を使っているのか、それは明らかではない。彼らの"呪術"の原 理はまったく不可解であり、それでいて、いくばくかの信頼性がある。私は何人かの怪我人や病人の治療を観察したが、それが無意識の集団催眠なのか、祈祷師 の"ヒール"を受けたあとに奇跡的に回復する生物理学的効果なのか、ほとんどのヒーリングが明らかに患者本人の精神に働きかける形で行われているため、そ れを確かめる方法はないが、いずれにしても、私がこれまで見たことのある月並みな催眠療法には比べものにならない程の治癒効果が認められた。
これは非常に魅力ある現象である。今後、数年間かけてじっくり研究してみたい。


イーオドンの動物

私に与えられたマローン君の"伝説"のメモ帳の残りページがいつなくなるか、私は戦々恐々として筆を進めている。恐らく残りの報告に関しては、内容を蒸留 してお伝えする努力が必要とされるだろう。そこで、この谷で見られる最も一般的な動物たち…非常に多種類の蛇(そのほとんどがマムシの仲間で大型の蛇は見 られない)や、ここの環境に実に見事に順応している大きくて美しい黒豹、非常に多種類のオウムなどなど…の紹介はこの際省略して、それよりむしろ、特殊な 動物たちに焦点を当てようと思う。
また、イーオドンの谷の洞窟に棲息する多彩な巨大蜘蛛についても、ほんの少ししか触れられないのは実に残念だ。それは巣を張る種類の蜘蛛で非常に大きい。 私が目撃したサンプルの場合は足を広げると180センチメートルもあった。彼らは谷の洞窟を占有して生活しているが、巣にかかる獲物に頼ることはしない。 夜間に食糧を求めて巣を出るのである。私はまだ、これらを詳しく観察する機会に恵まれていないため、その起源について科学的考察を行うことは今はできな い。
前に古代生物の"生き残り"について述べたが、この谷には外の世界での絶滅の災禍に遇わずに生き延びている動物たちがいる。
生き残り動物には多くの種類がある。ここではいくつか掻い摘んで、簡単に紹介しよう。ここに挙げる動物を見て、諸君は間違いなく、そんな馬鹿なと嘲笑され ることだろう。科学に詳しい諸君らに対して、私が本気でこんなことを言っているのかと…。しかし、権威ある科学者たちがここを訪れ、私が目にしたものを実 際に見れば、彼らの顔から嘲笑が消えてなくなるだろうと私は確信する。
イーオドンの谷で見られる動物には、次のような種類がある。


アロサウルス
アロサウルス科。アロサウルスはジュラ紀後半から白亜紀の前半(約1億4400万年前を挟む時代)に棲息していた二足歩行する肉食恐竜。体長は12メート ル、体高は4.5メートル、重さは(足跡を測定し、そこから算出した推定値として)1.5トン。私が観察した限りでは、アロサウルスは単独で狩をするが、 アバトサウルスのような大型の獲物を狙うときは数頭がグループを組んで行動することもあると、原住民が強く私に訴えていた。これが真実を伝えようとしたも のか、私のような無知なよそ者に警告を与えるためのものなのか、私にはわからない(だが実際に、私への警告としての彼らの意図は達成されたと言える)。

アルファドン
全獣目。白亜紀後半(約6500万年前)に棲息した原始的な哺乳類。外見上はコモリネズミに似た体長90センチメートルほどの有袋類と考えられていたが、 イーオドンの谷では外の世界での現代のネズミと同じような生態的位置を占めている。頭がよく、雑食性で樹木生活に長けている(把握作用のある足と尾を持 つ)。群を作ると、非常に危険な存在となる。

アンキロサウルス
アンキロサウルス科。白亜紀後半(約6500万年前から恐竜時代の終わりまで)に棲息した鎧のような背中を持つ背が低く鈍重な恐竜。草食性で、4本の足で 歩き、尾の先に棍棒のように大きく膨らんだ部分を使って身を守る。体長約5.5メートル、体重約3トンにまで成長する。大きさ重さ共にちょうど乗用車ほど だ。私は一度だけ小型のアンキロサウルスを乗りこなす原住民に出会ったことがある。だが、そのとき彼は私を殺したがっていたため、アンキロサウルスを捕獲 し調教した方法については質問することができなかった。

アパトサウルス
ディプロドクス科。アパトサウルスは、長い間、また今でも広くプロトサウルスとして知られている。外の世界ではアパトサウルスは決して最大の恐竜とは考え られていないが、ここイーオドンの谷で見られる恐竜の中では最大である。体長は25〜55メートル、体重は30〜35トンにも達する。一般的な学説に反し て(イーオドンの谷がそれを証明しているが)、アパトサウルスはその生活の多くの時間を水中ではなく陸上で過ごしている。イーオドンの谷のアパトサウルス の場合、陸上で身の危険を感じたときにのみ沼などの水中に逃げ込む。したがって、沼地帯はアロサウルスやティラノサウルスなどの大型肉食恐竜にとっては実 に面白くない場所となる。原住民は、アパトサウルスを非常に明快な名称で呼んでいる。直訳すると"首長"だ。

アルケロン
カメ目。クリプトディラ亜目。プテロステジス科。現代人である諸君は"巨大なカメ"と言ったほうがわかりやすいだろう。白亜紀の後半(6500万年以上 前)、アルケロンは体長が4メートル近くにもなる途方もなく大きな海亀だった。イーオドンの谷で私が目撃した種類は淡水性で人間にもなれていた。適当な量 の餌を与えれば、従順な動物となる。

デイノニクス
ドロマエオサウルス科。デイノニクスは、白亜紀の前半(約1億440万年前)に棲息した機敏な動作で二足歩行する肉食恐竜。体長約3.6メートル、体高約 1.8メートルに成長し、体重は人間の大人と同じくらいになる。私がヨラルー族と生活を共にしていた頃、幸運にもデイノニクスが群でアパトサウルスの子供 を狩る場面を見ることができた。それは実に強烈な印象を私に与えた。将来、デイノニクスやその他の恐竜の社会構造について、みなさんに報告できればと思 う。

ディメトロドン
ペリコサウルス目。分類上は恐竜ではなく、哺乳類と同系列の爬虫類に属する。二畳紀の前半(約2億8600万年前)に棲息していた。4本の足で這うように 歩き、体長約4メートル、体重約200キログラムに成長し、背中に体温調節のための船の帆のように膜を張って広がる刺状の突起がある。大変に強い顎を持 ち、一度敵に噛みつくと敵が息絶えるまで放さない。イーオドンの谷では、ディメトロドンは明け方に狩をする。夜明け直後に獲物を捕るが、それに失敗する と、その日は一日腹を空かせて過ごす。

ギガントピテカス
類人猿科。立ち上がると体高約3.5メートルにも達し、足跡からの計算が正しいとすれば、体重は400キログラムにもなる霊長類である。原住民の呼び名を 直訳すると、"黒い幽霊"という意味になる。その黒い体毛といつも単独で行動し大変に臆病であることから、そう呼ばれているらしい。ときどき小型の囓歯類 を捕らえて栄養を補うことがあるが、基本的には草食性で他の動物を進んで襲うことはない。ただし、危害を加えたり怒らせたりすると非常に狂暴な一面を見せ るため、原住民は大変に恐れている。また、稀に"紅色幽霊"と呼ばれる種類も見られるという。それは、ジャングル中を暴れ回り、動物や人を驚かせたり、ギ ガントピテカスのグループから比較的弱くて小さい"黒い幽霊"をされって、新しいグループを作ろうとするような常軌を逸した行動をとる。ときには、人間も さらうとも言われている。イーオドンの谷では、ギガントピテカスは山の斜面や岩棚を寝ぐらにしている。

プレシオサウルス
プレシオサウルス目、プレシオサウルス超科。ジュラ紀前半(約2億年前)に棲息した水生恐竜。この谷の種類は体長6〜7.5メートルほどに成長し、狂暴で 危険な生物である。外の世界では、体長12メートル以上にも成長する種類があったことから、ここでも、もっと深い水域に大型のものが棲息している可能性が ある。沼のような静かな水域に多く棲息しているため、原住民は沼を渡るときには必ずイカダを使用する。また、アルケロンを餌などで手なずけてその背中に 乗っていくという方法もある。

プテロサウリア
かの有名な空飛ぶ爬虫類もこの谷で多く見ることができる。ジュラ紀前半(約2億1300万年前)から白亜紀の後半(約6500万年前)にかけて棲息した。 イギリスのディモルフォドンからアメリカ合衆国南西部のケツァルコアトラスまで、その種類は様々である。それに加えてこの谷は、新たなプテロサウリア種で あるスーパープテラノドンもいる。これはあの大きなケツァルコアトラスすら小さく見えるほどの巨大さで、数百キログラム以上の獲物を掴んで飛び上がれる力 を持っている。これが、外の世界でまだ発見されていない種類なのか、イーオドンの谷の環境によって独自に進化したものなのかは定かではない。スーパープテ ラノドンについては、非常に詳しく観察する機会に恵まれたため、学会に詳しい報告を提出したいと思う。そしてもちろん、発見者の特権として正式にこの種に 名前を与えたいと思う。

スミロドン
ネコ科、更新世後半(約1万年前)に棲息した動物で、サーベルタイガーの原型であう。ハークール族と同様に、イーオドンの谷の環境のおかげで、彼らは外の 世界の現実ではなく、この谷の明るい未来を手に入れたのである。一般には、サーベルタイガーはアラスカアカグマほどもある怪物と思われているが、実際に外 の世界に棲息していたスミロドンの体長は1.2メートルを超えることはまずなかった。ところが、イーオドンの谷で私が目撃したスミロドンはどれも外の世界 の種の4倍の大きさがあった。この谷のスミロドンの性格は残忍かつ獰猛である。非常に攻撃的で、少しばかりの悪知恵も働く。獲物に致命傷を与えて、あとは それが死ぬまで離れて見ていると言われているが、それも彼らの作戦のひとつなのである。

ステゴサウルス
ステゴサウルス科。ジュラ紀後半(約1億4400万年前)に棲息した、体長約7.5メートル、体重は約4トンの恐竜である。草食性で背中に脊柱が発達した 骨質板が並び、尾の先には、強力な武器となる鋭い突起が数本突き出ている。この骨質板が身を守るためのものなのか、単に体温調節のための器官なのかをここ で論議することはできない。なぜなら、彼らは観察しようとする私を近寄らせてくれないからだ。しかし、クーラック族の原住民はトンガリ歯(ティラノサウル ス)はステゴサウルスを襲うときには、慎重に骨質板を避けると教えてくれた。そのことから、骨質板には明らかに防御機能があると思われる。

トリケラトプス
白亜紀後半(約7000〜6500万年前)に棲息した、盾のような頭から攻撃的な3本の鋭い角の突き出た絵や映画でお馴染みの恐竜である。目の上に生えた 角は個体によっては1メートル以上にも伸びたものがある。草食性で、体長は9メートル、体重は10トン前後と思われる。イーオドンの谷では、トリケラトプ スは森や草原を群で移動し、豊かな食生活を送っている。肉食動物に襲われた場合には、集団でこれに対抗する。

ティラノサウルス
ティラノサウルス科。白亜紀後半(約6500万年前の恐竜絶滅期)に棲息し、二足歩行をする肉食恐竜である。体長は18メートル近くあり、アロサウルスよ りもやや背が高い(もしかすると、そう感じられるだけなのかもしれない…、いつか正確に比較測定しなければならないと思う…喰われずにそれができればだ が)。体重はアロサウルスの約4倍の8トンにも達する。
谷の原住民の間で使われているティラノサウルスの名称は直訳すると"トンガリ歯"となる。イーオドンの谷で観察する限り、ティラノサウルスは行動が機敏 で、高い知能を持つ肉食動物だ。原住民の話によれば、獲物を捕るときは木や岩棚の陰に隠れて待ち伏せし、獲物を見つけると吠え声をあげながら全速で襲いか かる習性があるという。巨大で恐ろしい怪物である。
ティラノサウルスの頭蓋骨を調査した結果、この谷に棲息する種類の頭蓋骨の構造には遺伝上発生した致命的な欠点があることがわかった。たとえば、頭の上に 適当な高さから適当な大きさの岩石を落としたようなある程度の衝撃が頭蓋骨に加わると、恐らくティラノサウルスは一発で死んでしまう。あくまでも、私の計 算が正しければの話だが。

ウルサス・スピラエウス
ウルサス科。大型の"洞窟グマ"が外の世界に最初に現れたのは、約200万年前の更新世であり、氷河期を生き長らえた。大きなクマだったが、今日の大型の クマと、さほど大きさは変わらない。イーオドンの谷で見られるクマは昆虫の幼虫や植物を食べて慎ましく生きているが、原住民の話では、怒らせると人間など は簡単に殺してしまうとのことだ。
さて、私の話はまだ終わりではない。あとふたつ、イーオドンの谷の最も興味深い"動物の生態"を紹介しないわけにはいかないのである。サックラーとミルミデックスだ。

サックラー
サックラーは二足歩行する恐竜類である。体高は150〜180センチメートル、平均的な体重は65キログラム前後。こんなことを発表すると、私の同朋であ る科学者たちはびっくり仰天し、私は冷笑の的になること間違いないが、彼らは感情を持ち、言葉を話し、石を削って武器を作る知識と技術を持っている。文化 的習慣に従って生活し、谷の人間の言葉を学び話す能力もある。明らかに彼らは二足歩行恐竜が進化したものだ。恐らくドロマエオサウルスあたりがその先祖と して最も有力ではないかと思う。頭蓋には刺状突起があり、これは警告のための器官であり、第二次的に性的アピールのための器官でもある。ドロマエオサウル スの鎌のような後足の鉤爪はサックラーには痕跡しか残っていない。

ミルミデックス
ミルミデックスは昆虫だが、外の世界では決して見ることのできない種類である。ミルミデックス(これは原住民の話を記録した資料から私が翻訳して命名し た)は、アリに似た肉体的、また社会的な構造を有している。アリと異なるのは、体の大きさが人間ほどもあるということだ。一般的名四角四面の論理からすれ ば、これもうさん臭い話に聞こえるだろう。だが、彼らは実在する。彼らの親戚と思われるアリと同様に、非常に狂暴で恐ろしい生き物なのである。イーオドン の谷では、ミルミデックスは最も危険な生物であり、そのアリに似た残忍性と持久力を増大させるための知性の存在すら伺えるのである。


イーオドンの植物

マローン君のメモ帳に残された私の持ちページが残り少なくなったことに危機感を覚えつつ、私はこれ以降、概略のみを記すことにする。
イーオドンの谷は様々な地形のごった煮のような場所だが、その中心は地理的にも興味的にもジャングルである。ジャングルは、恐らくジュラ紀から白亜紀にか けての植物を広範囲にわたって保持し続けている。それは明らかに熱帯雨林であるが、外の世界のどの熱帯雨林とも違っている。
石炭紀の巨大なトクサの仲間、二畳紀のみごとなシダ類、ジュラ紀の大型松柏類、白亜紀の現代的な草花や熱帯樹などが豊かに成長し、肩を並べて茂っている。 付け加えるに、多くの植物が外の世界のアマゾン川流域に繁殖している植物と同一であることから、イーオドンの谷は南米のどこかに存在しているのではないか と思えてならない。
しかし、谷の北部では、地形が突然に高原になり、トウモロコシや現代の草が茂っている。谷の南東部では、岩が多く植物は少ない。火山が支配する土地であるためむしろ火山学者の天国と言えよう。また、豊かなウラリの沼地帯はジュラ紀の沼沢性松柏類の小世界を形成している。


イーオドンの将来

イーオドンの谷で起こった最近の出来事がきっかけとなって、ここもすぐに現代人に発見されてしまうことは避けられない。営利主義者や政治家たちにこの谷の ことが知れるのも時間の問題だ。そうなれば、科学者や自然保護団体は、イーオドンの谷の奇妙で豊かで非常に傷つきやすい自然が開発業者や利益団体によって 破壊されないよう、素早い行動を取ってくれるものと確信している。
あらゆる分野の科学者がここを訪れ、この谷の動物、植物、地質について調査分類をする必要がある。人類学者や考古学者はここの知的住民について同様な調査 と分析を行うべきである。連邦政府はイーオドンの谷がどの国の中に位置していようとも、すべての調査が終了するまでいかなる開発も資源の持ち出しも禁止す る法律を作るように立法府に働きかけるべきだと、私は強く訴える。


イーオドンの"呪術"

トーテムと捧げ物
イーオドンの谷の祈とう師は"呪術"の効果を引き出すためにトーテムと捧げ物を様々に組み合わせて使用する。
自然の精霊の象徴であるトーテムには、人間の頭蓋骨、ゴリラの頭蓋骨、ジャガーの頭蓋骨の3つがある。人間の頭蓋骨はヘルズと呼ばれる知識と視野の精霊の トーテム。ゴリラの頭蓋骨はアファズと呼ばれる情緒と強さの精霊のトーテム。ジャガーの頭蓋骨は戦場を支配する原住民が信じるモタズと呼ばれる精霊のトー テムである。
儀式で風の中に撒かれる捧げ物には、原住民がチョコラトルと呼ぶテオブロマ・カカオ、幻影と知力を高めるために使用するバニステリオブシス・カーピ(現地名パインド)、そして、ヨポと呼ばれる猛毒のバイロラ・カロフィラがある。
3つのトーテムと3種類の捧げ物を使って、合計9種類の組み合わせができる。それが"呪文"の役目を果たすのである。


知識と視野の精霊"ヘルーズ"の呪術

虎の目― 人間の頭蓋骨とチョコラトル
数分間、照明として十分な光を発する。明るさは松明と同等なので、特別に役に立つという程のものではない。この光がどのようにして生み出されるかは謎である。

鷹の目― 人間の頭蓋骨とパインド
術が利いている間、術者は魂の鷹となって肉体を離れ、高空から地上を見渡すと信じられている。迷信はどうであろうと、この技を使用した人間が本人の記憶や経験からだけでは推測し得ない周囲の状況を感知するという、驚くべき事実を私は目撃している。

精霊の門― 人間の頭蓋骨とヨポ
この術は、術者本人が最も危険な状況に直面したとき、その窮地から脱出するためのものである。術者の身体は瞬間的に最も安全とされる場所に移動できるとい う。現代の言葉で表せばテレポーテーションであるが、単に催眠作用で脱出時の記憶が消されるだけなのかもしれない。原住民によれば、この術は命を救う代償 に、それまでの経験の半分を失い術者の力量が後退するという欠点を持つという。


情緒と強さの精霊"アファズ"の呪術

精霊の心― ゴリラの頭蓋骨とチョコラトル
敵を"呪う"ときに使用する。カリブ地域のブードゥー教の呪術に似て、その効果は術者の"力"よりもむしろ術をかけられる側の恐怖心が引き起こすと考えられる。

精霊の手― ゴリラの頭蓋骨とパインド
仲間の怪我や病気の症状を緩和させる術である。この効果が単に精神身体医学的な働きによるものなのか、パインド自体に治癒効果があるのか、定かではない。

精霊の守り― ゴリラの頭蓋骨とヨポ
恐らく、その効果が最も疑われる呪術である。原住民はこれによって術者の体が保護されると信じている。明らかに誤りだ。実際に私は、この呪術の"保護"を 受けた人間が悲惨な怪我を負ったのを見ている。祈とう師に百歩譲って、この呪術に何らかの保護効果があったとしても、それは人々が思っているより遥かに小 さいものだ。


戦闘の精霊"モタズ"の呪術

精霊の援軍― ジャガーの頭蓋骨とチョコラトル
これらを使って、術者は戦闘力となる一頭の動物を送るようにモタズに祈願する。この術に限らず、モタズを使用する呪術は戦闘中でのみ効果を表すそうだ。私 が会った祈とう師はみな口をそろえてそう主張している。私個人はチョコラトルの独特な匂いと戦闘の音に動物が引き付けられて現れるのだろうと解釈してい る。しかし、この術が成功した光景は一度すら見たことがない。祈とう師は非常に難易度の高い術なので、まれにしか成功しないと主張していたが…。

炎の地獄― ジャガーの頭蓋骨とパインド
目前に火球を発生させ敵を焼き殺す術である。パインド自体がハッカし、その炎が敵対する者に飛び火すると理論的には考えられるが、実際火球が意志的に敵を追うように飛んでいくのだ。

精霊の怒り― ジャガーの頭蓋骨とヨポ
祈とう師が精霊の怒りを喚起させ大地を揺るがし敵をほぼ全滅させるという。驚くべき呪術であるが、空を飛ぶ敵には通じないらしい。



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